コロナ禍の規制が緩和し、さまざまなイベントが再開しつつある2023年。目的地まで比較的安価で移動できる高速バスを利用する人が多いかもしれない。しかし長時間の移動や、運行中の揺れによって「十分な睡眠が取りづらい」と感じる人も少なくないのでは?
そんななか、“眠りのための最適な環境”を追求した、従来のイメージを覆す画期的な座席シートを開発・採用しているのが、WILLER EXPRESS株式会社だ。しかしながら、バスという限られた空間のなかで、どのようにして睡眠環境の充実を実現しているのだろうか。
そこで今回、WILLER EXPRESS株式会社(以下、WILLER)広報の竹内美月さんに、座席シートの開発経緯とその魅力について聞いた。
最初は女性をターゲットに「リラックス」を開発
WILLERのバスは、東名阪の主要都市を中心に新潟県や長野県など全国各地で運行しており、現在全5種類の座席シートを採用している。最もスタンダードなのが4列シートでピンク色の「リラックス」というシートで、2007年の導入以来、WILLERを象徴するシートとして主に10〜20代を中心に利用されている。
「WILLERはすべての人が自由に移動できる世界を創ることを目指しています。昔の高速バスは利用者の多くが男性でしたが、弊社は女性にも安心して移動いただけるサービスを展開してきたことで、利用者の男女比は男性3割、女性7割となっています。『リラックス』には『カノピー』(顔を覆うフード)がついており、『すっぴんや寝顔を見られたくない』といった女性のお客様の声や、弊社の女性社員の提案をもとに開発しました」
よく街で目にするピンク色のバスは、「ほかのバスにはない色を」という理由で採用されたようで、女性にも親しみやすいカラーリングとなっている。
WILLERは2016年に「コモド」、2017年には床が木目調の「ラクシア」を開発。そして2018年、“高速バス=疲れる”というイメージを払拭するべく、新たに開発したのが「リボーン」だ。
「これまでは、主に女性が安心して乗れるシートを中心に開発してきましたが、『リボーン』はビジネスパーソンをターゲットにしていて、ラッピングの色もシルバーに変更するなどイメージを一新しています。ほかのシートタイプより運賃も上がりますが、宿泊費の節約のために、普段は新幹線を利用している方など学生より社会人の方が乗車されるケースが多いですね」
約155度のリクライニングが可能な「リボーン」
「リボーン」には、“眠りのための最適な環境”をコンセプトにした、さまざまな機能が取り入れられている。例えば座席を後ろに下げる時、後ろの人を気にしてしまうことはないだろうか。そうした悩みを解決してくれるのが、「リボーン」の「ゆりかご電動リクライニング」だ。
「シェル型の構造によって、場所を取らなくても約155度のフラットに近いリクライニングが可能です。そのため、お客様からは『乗車から到着まで一度も起きなかった』『こんなに寝られるとは思ってなかった』といったお声をいただいております。私も東京~大阪間を乗りましたが、到着までまったく起きなかったですね(笑)。さらに、シェル型の構造により身長180センチ以上の方でも完全に隠れるほどの高さとなっていますので、個室のような感覚を存分に味わっていただけると思います」
加えて、手元にある電動のリクライニングコントローラーでレッグレストを調整すれば、フットレストとつながり、足を伸ばせるのも快適さの理由だ。そんな「リボーン」の開発には3年の期間を要したそうだが、どのようなところに注力したのか。
「専門家とともに、人間工学に基づき開発しました。特にクッションは、腰、臀部、背中それぞれで硬さを変えていて、しっかりと身体にフィットするように仕上げています。ほかにもこれまでのシートと比べ、眠るための調光と騒音を軽減する工夫を施していますので、より良い睡眠環境を作ることができます」
バスのなかでも自分らしい過ごし方を
ここ数年でさまざまな座席シートを開発しているWILLERだが、コロナ禍の影響により直前の2019年までは年間330万人いたバスの利用者が激減し、ユーザーと乗務員の安全を鑑み、一時は運行を中止するなど厳しい状況が続いた。しかし最近では利用者の数も戻り、以前にも増してサービスの質を上げているそうだ。
「『リラックス』においては、もともと脇下くらいまでの仕切り板がありましたが、現在は頭部を隠せるくらい高くなり、隣の人とも目線が合わないようになりました。感染対策で始めたことではありますが、より個室感が出たことで、さらなる満足感につながったと実感しています。
また、2023年4月28日より、新しい4列シートの運行を開始しました。今回のシートは、今のお客様のニーズに寄り添った快適な空間作りを目指し、“プライベート空間”“エンターテインメント空間”“快適な眠りの空間”を実現しています。 具体的には、カノピーの大型化やスマホホルダーの設置、可動式パーテーションへの変更、青色の間接照明の導入など、WILLER史上最高の快適性を実現した4列シートになっています(※現在は東京~大阪間のみの運行)」
さらに、日々の過ごし方が多様化したことにより、バス内でのスマホの使用や動画配信コンテンツの視聴などの需要が増えてきているそうだ。それを受けて竹内さんは、「今後も世の中の状況に合わせてお客様のニーズを満たすような機能を搭載していく予定です」と展望を話す。
「これからもお客様に安全かつ快適にご乗車いただき、実際に見て乗って、わくわくしていただけるようなシートを展開していきます!」
常にユーザーの目線に立ちつつ、高速バスのイメージを覆すような画期的かつ利便性の高い座席シートを開発するWILLERは、これからどんな形で快適な旅を提供してくれるのだろうか。旅先ではもちろん、今後はバスのなかでも楽しみを見つけてみては?
取材・文=西脇章太(にげば企画)