からしやわさびといった調味料は、日々のさまざまな料理に欠かせない食材。ゆえに、その都度すりおろさずに「チューブ入り調味料」を使う人がほとんどだろう。
中身を簡単に絞り出せて使用量も調整可能なため、チューブ入り調味料を一式そろえている人も多いと思うが、本来ならば“すりおろす”という作業が発生することを忘れがちだ。では、私たちはいつからチューブ入り調味料を使うことが当たり前になったのだろうか?
今回は、日本で初めてチューブ入り調味料を発売したエスビー食品株式会社(以下、エスビー食品) 広報・IR室の田代真春さんに、その誕生秘話と開発におけるこだわりを聞いた。
1970年に日本初のチューブ入り調味料が誕生!
エスビー食品が日本初のチューブ入り調味料「洋風ねりからし」を発売したのは、1970年のこと。レトルト商品やインスタント食品が次々に発売されるなど、世間で利便性のある食品が浸透し始めた時代だ。そんな中、「好きなときに使いたい量をすぐに使える」「容器のバリアー性」とさまざまな観点から検討し、チューブタイプのからしの発売に至ったという。
現在はチューブタイプが主流であるため、特に平成生まれの人には馴染みがないかもしれないが、当時のからしは「缶入り粉末」が一般的だった。使用したい分の粉末に水を加え、よくかき混ぜて4分〜5分おいてから使用するものだ。
「歯磨き粉も今ではチューブタイプが当たり前になっていますが、実はその名前の通り粉状のもので磨いていた時代があったんです。歯磨き粉も、チューブ入り調味料の発売と同時期に『練り歯磨き粉』が主流になっていきました」
その後、1972年にチューブ入りの「ねりわさび」「和風ねりからし」、1973年に「おろし生ニンニク」、1975年に「おろし生ショウガ」が発売され、洋風ねりからしを含めた5つの商品はベストセラーに。以降、その手軽さと扱いやすさから一般家庭に広く浸透していった。
ただでさえ便利なチューブ入り調味料をさらに改良
チューブ入り調味料の普及によって便利になった一方、ふたを何度か回転させて開閉させる手間がかかったり、肩口がなだらかになっていないため中身を出し切りにくい形状になっているといった問題点もあったという。
そこで、エスビー食品は改良を重ね、2006年に「すぐ開きキャップ」、2012年に「ラクしぼりチューブ」を採用。筆者もよくエスビー食品のチューブ入り調味料を使用するが、ひと昔前と比べて片手でキャップを開けられたりと、より簡単に扱えるようになったと感じる。具体的にどのように変化したのだろうか。
「『すぐ開きキャップ』は1/4回転するだけで開閉が可能で、緩み止め構造を施しています。『ラクしぼりチューブ』のほうは、肩口周りを蛇腹状にすることにより、押し出しやすさをアップ。さらに肩口をなで肩にするとともに、チューブ先端にも縦の切り込みを入れ、最後まで無駄なくしぼれる形状となっています」
これらの規格は「本生シリーズ」をはじめ、現在売られているチューブ入り調味料の大きな特徴となっている。調理の際に、一度その工夫の数々を確かめてみてはいかがだろうか。
「洗ったみたいにきれいに使える」ユーザーからも大好評
「すぐ開きキャップ」と「ラクしぼりチューブ」を採用したチューブの存在が当たり前となった2023年現在。エスビー食品の並々ならぬ企業努力の甲斐あって、ユーザーからは好評の声が数多く寄せられているのだとか。
「お客様からは『チューブの先端部分がキザギザになっていて、洗ったみたいにきれいに使えるところに感動した』『今までのチューブだと最後まで使い切れなかったけど、今は100%無駄なく使える』といった、とてもうれしいお声をいただいております。今後もお客様がより手軽に、おいしくお召し上がりいただけるように改良を重ねていきます」
パッケージデザインにおいては、見た目の印象はもちろん、ユーザーを第一に考えて形や使用感にこだわっているそうだ。「最近では環境への配慮なども含め、総合的な満足度を高めるべく日々改善の知恵を絞っています」と田代さん。
幅広いラインナップのチューブ入り調味料を開発し、時代のニーズやユーザーの思いに寄り添ってきたエスビー食品。味もさることながら、機能面も進化し続けてきたチューブ調味料の、これからの進化から目が離せない。
取材・文=永田奏歩(にげば企画)