おにぎりの具材といえば鮭や昆布などそれぞれのお気に入りの具材が思い浮かぶと思うが、忘れてはならないのが、簡単におにぎりをおいしくできる「ふりかけ」。特に『のりたま』などを販売する丸美屋食品工業株式会社(以下、丸美屋)は業界シェアNo.1を誇り、なかでもおにぎりへの使用率が高いのが、同社から発売されている『混ぜ込みわかめ』だ。今では20品以上ものシリーズ関連商品を展開する一大ブランドとなっている。
多くの人が一度はお世話になったことがあるであろう丸美屋の『混ぜ込みわかめ』だが、35年前の発売当初、“混ぜ込んで使うふりかけ”としては市場では後発で、すぐにヒットしたわけではなかったという。
今回は丸美屋の担当者に、『混ぜ込みわかめ』のヒットの理由について話を聞いた。
時代の変化で大ヒット!『混ぜ込みわかめ』開発秘話
丸美屋は1927年に創業。百貨店などでの販売を視野に入れた高級ふりかけ『是はうまい』を発売し、富裕層からの支持を得た。後の1960年には『のりたま』を発売し、“ふりかけの代名詞”とも言える大ヒット商品に。
しかし1980年代に入ると、ふりかけやおにぎりの慣習と市場に少しずつ変化が見られるようになったという。
「弊社のヒット商品『のりたま』は、旅館の朝食などで出される“海苔とたまご”をヒントに開発したもので、今日まで多くのご支持をいただいております。しかし1980年代に入ると他社から個包装の『おにぎりの素』が発売され、それまでは手作りの具材によるおにぎりが主流でしたが、こういった簡便商材を使っておにぎりを作ることに多くの方が少しずつ慣れ始めていきました。
そこで弊社でも、日本人にとってなじみ深い『わかめごはん』を手軽に作れる『混ぜ込みわかめ』の開発をスタート。わかめを使用することで“健康的”というイメージを付け、さらに個包装ではなく大容量のチャック袋にし、お好みのご飯の量に合わせて自由に使っていただけるようにしました。それが今から35年前の1988年のことです」
しかし『混ぜ込みわかめ』は、当初から市場を席巻したというわけではなかった。チャック袋で好みの量で使える利便性をもってしても先行開発の他社を超えるには至らず、しばらくの間苦戦を強いられたそうだ。
「発売後17年間ほどは、他社のおにぎりの素商品が圧倒的シェアを占めていて、弊社の『混ぜ込みわかめ』は一定のご支持をいただきながらも、なかなかシェアトップを勝ち取れませんでした。逆転したのは発売から18年後の2006年のことです。『混ぜ込みわかめ』の使い勝手の良さが支持を勝ち取ったというのも理由の1つですが、慣習の変化もあったように思います。それまでは生活者の中に『(おにぎりなどを作る際)加工食品を使うことは手抜き』という考え方がありましたが、2000年代より『簡便商材を追求することは家事の合理化である』といったマインドの変化が起こりました。
また、チャック袋にすることで、その都度好みの量が使える使い勝手の良さやコスパの良さが支持され、『混ぜ込みわかめ』は弊社の看板商品である『のりたま』と並ぶ一大ブランドに成長しました」
「冷めてもおいしく食べられる」のはなぜ?
丸美屋が開発した『混ぜ込みわかめ』が18年の年月を経て徐々に認知されていく中で、同社のお客様相談室には多くの好意的な声が寄せられるようにもなった。「『なかなかご飯を食べてくれない息子が、混ぜ込みわかめを使ったらぱくぱく食べてくれるようになった』『混ぜ込みわかめを使うとご飯が冷めてもおいしく食べられる』といったありがたい声をいただくようになりました」と担当者は話す。
現在『混ぜ込みわかめ』には20品以上のシリーズ関連商品があるが、どの味にも共通してこだわり抜いているのは、この生活者の声にある“ご飯が冷めてもおいしく食べられる”という特徴だという。
「『混ぜ込みわかめ』シリーズの関連商品は、いずれも具材を大きめに作っています。具材が小さいと、ご飯が冷めた際にごはんと具材が馴染みすぎて味がぼやけがちですが、これを避けるために具材を大きくすることで、ご飯が冷めても具材が埋もれることなく、しっかりと素材の風味を感じることができます。これが冷めてもおいしく食べられる『混ぜ込みわかめ』シリーズの人気の理由の1つです」
発売35周年を迎えてパッケージに込められたアツい思い
ふりかけ市場のトップを走り続ける丸美屋だが、その絶大な支持におごることなく、新しいふりかけの開発はもちろん、既存商品に関しても日々研究に取り組んでいるという。
「食事は毎日のことです。なので、今後もさらにアイテム数を増やして飽きのこない『おにぎりライフ』『混ぜごはんライフ』を過ごしていただけるよう、精進していきたいと考えています。新味はもちろん、すでに発売している商品についても日々研究に取り組んでいます。皆さんの毎日の食卓やお弁当が少しでもおいしく食べていただけるよう、改良を重ねていきたいと思っています」
発売35周年という節目を迎えた2023年、『混ぜ込みわかめ』シリーズのパッケージには「簡単・手軽に、もっと自由に。おにぎりで食べる人とつくる人のきもちが通い合う社会を実現する。それが『混ぜ込みわかめ』に込めた思いです」というメッセージが添えられている。これは、「家事に仕事にあわただしい毎日の中でも、『混ぜ込みわかめ』を使えば、誰でも簡単・手軽にきもちが込められたおいしい手作りのおにぎりが作れます。そんな手作りおにぎりで、食べる人とつくる人がきもちの通い合いを実感できれば、きっと社会は、今よりもっとあたたかくなる」という思いを伝えるために添えられたものだと担当者は話す。
『混ぜ込みわかめ』が多くの人に支持され続けるのは、その味わいや利便性だけでなく、こういったアツい思いが込められているからなのかもしれない。
撮影・文=松田義人