赤いパッケージに子供の顔のイラストでおなじみのビスケット菓子「ビスコ」。2010年には、宇宙飛行士の山崎直子氏が国際宇宙ステーションで撮った写真に一緒に映っていたことでも話題になった。そんなビスコが、なんと2023年で発売90周年を迎えるという。
時代とともに変化を重ねてきたビスコだが、令和に入ってからは大きなリニューアルを遂げたそうだ。今回は、令和以降のビスコの変化について、江崎グリコ株式会社(以下、江崎グリコ)グローバルブランド事業部の三川明日香さんに話を聞いた。
今の「ビスコ坊や」は5代目!「ビスコ」誕生秘話
ビスコの誕生は、1930年代にまで遡る。江崎グリコ創業者の江崎利一氏が、当時大ヒットしていたグリコーゲン入りのキャラメル「グリコ」に次ぐ“第2の栄養菓子”を作ろうとしたことが始まりだ。
「まだまだ子供たちの栄養が足りてないとされていた1933年当時、胃腸の働きを助けて消化吸収作用を促進させる『酵母』に着目したお菓子として誕生しました。『ビスコ』という商品名も、酵母が入ったクリームをはさんだビスケット『酵母ビスケット』を略した『コービス』が由来です。ビスコはお子様の栄養と成長を願って生まれたお菓子なんです」
パッケージの男の子は「ビスコ坊や」といい、ビスコ誕生と同時に生まれたキャラクターだ。江崎グリコはビスコ坊やを“子供の成長を願うシンボル”として描き、今でも大切にしているそうだ。
「ビスコ坊やのほっぺたの膨らみは“おいしさ”を表現しています。社会を映す鏡として、実はデザインもたびたび変化しているんですよ。現在は5代目で、4代目から5代目に変わるときには、卒園アルバムをもとに比較分析を実施し、特徴であった髪型とあごのライン、目の大きさを見直して、現代のお子様の顔立ちに近づけました」
このように、初代から5代目までどれもその時代ごとの子供の顔の特徴を反映しているため、当時の子供たちの様子を感じられるようになっている。
原点に立ち返り、大リニューアル!現在の「ビスコ」とは?
ビスコ坊やだけではなく、必要とされる栄養素の変化に合わせてビスコ自体のリニューアルも繰り返し、中身のクリームの成分も、当初の酵母から「スポロ乳酸菌」という生きたまま腸まで届く乳酸菌へと変わっている。2020年10月には15年ぶりのリニューアルが行われたそうだが、どんな内容だったのだろうか。
「“素材”と“おいしさ”の2つの観点から、リニューアルを実施しました。まず素材に関しては、乳酸菌とその乳酸菌のエサとなる食物繊維を一緒に摂ることで双方の効果を高める『シンバイオティクス』というアプローチを実現しました。おいしさの面としては、ビスケットをさらにサクッと香ばしく焼き上げ、薄くしてその分クリームを増やし、口どけの良さを楽しんでもらえるようにしました」
三川さんによると、健康効果をより高めることに注力したこのリニューアルの根底にあるのは、「原点回帰」の姿勢だという。
その背景として、2010年代にブランドターゲットをそれまでの子供だけではなく、“大人の嗜好も満たすお菓子”として20~40代の女性への訴求を行ったことにある。このマーケティング戦略は功を奏し、2018年には過去最高売上を記録。一方で、商品のあり方がビスコ発売当初から少しずつ離れているようにも感じていたそうだ。
「ビスコの成り立ちに立ち戻ったとき、お子様の成長を考え、栄養を摂取できる点が評価されているポイントであり、それこそがビスコの価値なのではないかと気付きました。そしてその価値のためにできることは何だろう?と考えた結果が、今回のリニューアルなんです」
“ビスコは栄養価に富み、子供の成長に寄与する「栄養菓子」である”という、ビスコの原点を再確認したことで、令和の新時代にその思いを強くし、より機能性を高めて生まれ変わった。
受け継がれる食べ方と新しい食べ方
変化を続ける一方で、ビスコを半分に剥がしてクリームだけを食べるといった昔からある楽しみ方は、今も変わらず受け継がれているという。ときには、思いもしなかった消費者の食べ方に出合うこともあるそうだ。
「『子供の発想ってすごいな』と感じたのが、ビスコを2つ用意して1枚ずつ剥がしてクリームがついているほうのビスケット同士を重ね、『クリーム2倍ビスコ』にして食べているというお声を聞いたときです。『天才だな』って思いましたね(笑)。私も試してみたところ、とてもリッチな味わいでした」
ほかにも、ビスコにトマトやヤングコーンを乗せてフランス料理のカナッペのようにするなど、さまざまな食べ方があるのだとか。三川さんのおすすめは、「ビスコ いちご」の間にチーズを挟む食べ方。チーズケーキのような味わいになり、スイーツ感覚で食べられるという。
グリコのファンサイト「with Glico」にはこういったアレンジレシピが掲載され、2023年3月から4月にかけては新たなアレンジレシピを募るコンテストも実施。アレンジレシピを参考に、オリジナルの食べ方を発明してみるのもいいかもしれない。
世代を超えた「栄養菓子」として、攻めの姿勢をやめない
ビスコは発売から90年という歴史の長さから、子供の頃にビスコを食べていた人が親になり、自分の子供にも同じように食べさせているケースが多いという。また、親世代からは「子供に罪悪感なく食べさせられる」といった声もあるようで、ただおいしいだけではなく安心感も伴うお菓子として、世代を超えた多くの人からの高い信頼を獲得している。
「特に印象的だったのが、『親子4世代に渡ってビスコを食べている』というお声をいただいたときです。その方はお孫さんを持つおばあちゃんで、ご自身が昔親御さんからビスコを買ってもらって食べていたそうです。そして大人になって娘さんに与えていたところ、今その娘さんもお子様に与えていて、お孫さんは毎日うれしそうに『ビスコ!』と言って食べている、と教えてくれました。これからもビスコが皆さまの生活の中にあり続けられるように、がんばっていきたいと強く感じました」
発売90周年を迎えた2023年は、さまざまな企画が予定されているそうだ。三川さんは「ビスコの歴史に残るような取り組みが水面下で進行中です。“攻めの姿勢”のビスコにぜひ期待してほしいですね!」と意気込む。
いつの時代も変わらない“親が子供を思う気持ち”に寄り添うことで、令和の時代に「栄養菓子」としてさらなる進化を遂げたビスコ。10年後に訪れる100周年に向けての歩みからも目が離せない。
取材・文=小賀野哲己(にげば企画)