「モンチッチ」が“空白の10年”を乗り越えて、令和にCEOになれたワケ。「前身は少女人形」という歴史も

2023年8月14日

日本が生んだおサルのようなキャラクター「モンチッチ」。1974年の誕生以来、メイン商材のぬいぐるみだけにとどまらず、テレビCM、アニメ、ぬいぐるみ以外のグッズ化など、これまでに数多くのシリーズ商品が展開されてきた。その人気は国内だけでなく世界30カ国以上に派生し、これまで7000万体のぬいぐるみが販売されるほどの大人気キャラクターに成長した。

そんな「モンチッチ」は、来たる2024年に誕生から50年を迎える。今回は、「モンチッチ」が“日本発のキャラクター”の代表格の1つになるまでのその歴史を、「モンチッチ」グッズを製造・販売している株式会社セキグチ(以下、セキグチ)の担当者に聞いた。

ふわふわの毛並みと愛らしい表情で世界中をとりこにする「モンチッチ」


「モンチッチ」の前身の1つは少女人形だった

「モンチッチ」は約50年前、東京・葛飾区にあるぬいぐるみメーカー・セキグチによって誕生したが、実は前身となる2つの商品があったという。1つは、手足がソフビ(ソフト塩化ビニール)で、体がぬいぐるみでできた「くたくたモンキー」というサルをモチーフにしたぬいぐるみ。もう1つが「マドモアゼル ジェジェ」という、そばかすとおしゃぶりポーズがかわいい少女の人形だった。

「モンチッチ」の前身となった「くたくたモンキー」

愛らしい表情・仕草が「モンチッチ」に継承されることになった「マドモアゼル ジェジェ」


「くたくたモンキー」は“ぬいぐるみとソフビの融合”という斬新な構造で、「マドモアゼルジェジェ」はそのキャラクターの愛くるしさでヒットに至ったが、セキグチではこのヒットにおごることなく、さらなる商品開発を行った。担当者はこう話す。

「『くたくたモンキー』『マドモアゼル ジェジェ』のどちらもヒットに至りましたが、双方のいいところを生かして、さらなる商品開発を行うことにしました。そこで発案されたのが、『くたくたモンキー』の体部分のふわふわ素材、『マドモアゼル ジェジェ』の人形ならではの愛くるしい表情とおしゃぶりする仕草、そばかすなどを合わせたおサルさんのキャラクターでした。これこそが『モンチッチ』です。発売当初から予想以上の大ヒットとなり、世間では『モンチッチブーム』が巻き起こるほどでしたね」

ちなみに、「モンチッチ」のネーミングには、実はフランス語の由来があるんだとか。

「フランス語の『モン』(“わたしの”という意味)と『プチ』(“小さくてかわいいもの”という意味)を合わせて、『わたしのかわいいもの』という意味を込めています。さらに、英語の『モンキー』と、おしゃぶりを“チューチュー”吸うような日本語の語感もかけ合わせて、『モンチッチ』という名前をつけました」

日本での爆発的なヒットのあと、誕生から翌年の1975年にはオーストリアを皮切りに海外へと続々進出。特にドイツ語圏で絶大な支持を得たほか、フランスでも「キキ」の愛称で親しまれることになった。また、1979年にはアメリカにも出荷され、「モンチッチ」の電気スタンドやベビー用玩具なども発売された。

しかし担当者によれば、この「モンチッチ」の爆発的なヒットは1970年代が中心で、1980年代に入るとブームは下火となり、1985年を境にフランスを除いて出荷を休止する事態になったという。

「国民的な大ブームが過ぎ去った1985年以降の約10年間、当時まだ人気だったフランスを除き、日本国内も全て出荷を休止することになりました」

ブームが過ぎ去ったあとは10年間姿を消したという


出荷休止の10年間にも絶えなかった「再販」の声

そのまま姿を消すと思われた「モンチッチ」だったが、この“空白の10年”の間にも、あのかわいさを忘れることができない多くのファンから、「再販してほしい」「もう一度『モンチッチ』と触れ合いたい」といった要望が後を立たなかったという。

「ありがたいことに出荷休止の間にも、多くの方々から再販の要望をいただきました。これを受け、出荷休止から約10年後の1996年に『モンチッチ』を復活させることにしました。以降、2000年頃まではさまざまなグッズを登場させ再びご支持をいただくようになったわけですが、この時期は『モンチッチ』のキーチェーンが『恋のお守り』として捉えられ、1970年代とはまた違う広がりを見せていきました。また、2004年の『モンチッチ』30周年の際に、千葉県浦安市のホテルで『結婚式』を行ったことが大きな話題になり、各地に『モンチッチ』売り場が再び登場するようになりました」

この2004年には「モンチッチ」の子供として「ベビチッチ」も登場し、大いに話題になったが、以降毎年、「モンチッチ」の誕生日イベントを実施するきっかけにもなったそうだ。

当初は“愛くるしいキャラクター”として支持を集めた「モンチッチ」だが、後に幅広いコラボや活動ができるキャラクターとして活躍し始めたようにも映る。このことも、「モンチッチ」がより多くの人に親しまれるようになった理由の1つのように感じられる。

「モンチッチ」を誕生させたぬいぐるみメーカー・セキグチでも、予想以上の大ヒットに驚いたそうだ


1974年の誕生から今日に至るまでの「モンチッチ」の伝説は、ここまでに紹介したもの以外にも数多くある。そのうちの一部を担当者に解説してもらった。

「珍しいタイプの『モンチッチ』として『スリープアイ モンチッチ』というものがありました。『モンチッチ』を寝かせると目が閉じるタイプのもので、特に海外で人気でしたね。また、葛飾で生まれた『モンチッチ』なので、同じく葛飾が舞台となった名作映画『男はつらいよ』とのコラボレーションも行い、『寅チッチ』という商品も誕生しました。『寅チッチ』はかなりのヒットで、かつしか観光大使にもなりました。さらに、東京・新小岩には『モンチッチ公園』も誕生し、銅像、マンホール、時計塔、バスなどあらゆるところに『モンチッチ』がいます。このエリアを散策される際は、ぜひ『隠れモンチッチ』を探して写真を撮るなど、楽しんでもらいたいです」

海外で特に人気だったという「スリープアイ モンチッチ」

東京・新小岩の「モンチッチ公園」付近のマンホール


「株式会社モンチッチ」設立!社会でも活躍し始める「モンチッチ」

2024年の「モンチッチ」誕生50周年に先駆け、2023年6月には「モンチッチ」がCEOを務める「株式会社モンチッチ」も設立された。一体どういうことなのだろうか。

「株式会社モンチッチは、『モンチッチ』が持つレトロで温かい価値を、昭和レトロを代表するキャラクターとして社会貢献に生かすべく、日本地域のレトロ文化を支援する企業です」

誕生50周年を目前にしても、まだまだ成長し続ける「モンチッチ」


具体的には、「人口減少」「少子高齢化」「地域衰退」といったさまざまな課題を前に、「モンチッチ」が世の中を元気にしていくという内容で、今後はいろいろな地域でイベントや地方自治体とのコラボ企画を行う予定だという。

「その第1弾として、2023年6月には東京・浅草エリアでのスタンプラリーを開催したり、500体にわたるモンチッチがユニクロ浅草店をジャックするなど、あらゆる企画を実施して多くの方に楽しんでいただけました。8月には山形エリアにて第2弾を予定しています。東北四大祭りである『山形花笠まつり』の広報大使にモンチッチが就任し、お祭り当日にはパレードにも参加します。そのほか、スタンプラリーやコラボ企画によって各地を盛り上げていきたいと思っています」

セキグチの吉野社長と握手する「モンチッチ」

各地域を「モンチッチ」が応援する「レトロで元気ッチ!プロジェクト」


最後に、50周年を目前とした今、「モンチッチ」にかける意気込みをもらった。

「発売当初から『モンチッチ』をかわいがっていただき、本当にありがたく思っています。『モンチッチ』は時代に合わせて変化をしながらも、このかわいさと癒やしを持ったうえでいろんな『モンチッチ』に変化し、愛されていきたいという本質的な思いは変わりません。まだ『モンチッチ』を知らない世代の方にもこのふわふわとした柔らかさに触れてていただき、日々の癒やしになればうれしいですね」

時代ごとに存在価値を変えながら成長している「モンチッチ」。これからはその愛らしさで、どんな活躍を見せてくれるのだろうか?今後の展開に期待したい。

取材・文=松田義人(deco)

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