スーパーやコンビニで最近増えつつある、「ご当地ラーメン」をテーマにしたカップ麺。なかでも多彩なラインナップを展開しているのが、茨城県に本社を置くヤマダイ株式会社の主力ブランド「凄麺」だ。
「喜多方ラーメン」や「佐野ラーメン」といった全国的に認知度が高いものをはじめ、日本全国の特色あるラーメンを商品化しているほか、ノンフライカップ麺全国売上No.1(※)の実績を誇っている。しかし凄麺の発売当初は、ご当地ラーメンをシリーズ化していく意向は特になかったのだとか。今では自宅でご当地ラーメンの味が楽しめる画期的な商品として大人気だが、商品化するに至った理由は何なのだろうか?
※出展:インテージSRI+カップ麺ノンフライ市場 2022年4月~2023年3月累計販売金額ベース
今回は、凄麺のブランド誕生秘話と開発の裏側に迫るべく、ヤマダイ株式会社(以下、ヤマダイ)経営企画部の森田佳奈さんに話を聞いた。
開発期間は10年以上!カップ麺のイメージを覆すために開発
カップ麺といえば、手軽さ、簡便さが売りである一方で、「手抜き」「体に悪い」というイメージを持つ人もいるだろう。2000年代初頭は、今よりもカップ麺に対する悪いイメージが先行しており、そんな状況を見かねたヤマダイの代表取締役社長である大久保慶一氏が、「おいしさをとことん追求したカップ麺を作ろう!」と決起。そうして2001年10月29日に誕生したのが「凄麺」だ。
「発売当初は今のようなコンセプトではなく、『本社がある茨城県から近い喜多方ラーメンや佐野ラーメンを商品化してみよう』という好奇心からスタートしたんです。そこから10個、20個と商品が増えていって、気づけばご当地ラーメンのカップ麺を展開するブランドとして認知していただけるようになりました」
とはいえ、凄麺のおいしさの秘訣である「ノンフライ独自製法」(特許製法)の開発には、10年以上の月日を費やしたそうだ。なんでも、麺の調理方法や大量生産する際のクオリティの維持などに試行錯誤する日々だったようで、何百回、何千回と試作するうちに、いつのまにか10年以上経過していたという。
発売以降もさらなる品質向上に尽力しており、凄麺の看板商品の1つである「凄麺 横浜とんこつ家」は、2005年9月の発売以降、シリーズ最多となる15回のリニューアルを実施している。加えて、森田さんは「商品の着想から発売までは、1年程度のものから5年を要するものまであります。発売後もより良くすることができないかと常に考えているので、いずれの商品もまだ開発途中と捉えています」と語る。こうした企業努力により、現在ではノンフライカップ麺全国売上No.1ブランドとして、多くの人たちから愛されている。
市役所の会議室で試食会も!地元の人々も協力する商品作りの裏側
カップ麺の市場では年間約1000個の商品が発売されるが、そのうち9割以上は終売してしまうのが現状だそう。しかし、「凄麺ブランド」は“終売しないこと”をモットーにしており、発売から5年、10年と長く愛される商品作りを心掛けているのだとか。では、開発の裏側は一体どのようになっているのか。
「商品開発の際は、実際にその土地の方々にアドバイスをいただきながら進行していきます。なかでも印象的だったのは『凄麺 愛媛八幡浜ちゃんぽん』の開発で、愛媛県八幡浜市の方から直接オファーをいただいて商品開発をスタートしました。市役所の会議室をお借りして、ちゃんぽん店の店主さんや市役所の職員さんたちと合同で試食会を実施しました」
このように、地元の人が好きな食材やその土地に根付いた食文化、ラーメンの歴史など、あらゆる背景をもとに、地元の人たちが愛してやまないひと品へと仕上げていく。森田さんは「お客様からは『いつもカップ麺は食べないけど、凄麺だけは食べる』『地元のラーメンを紹介するときは凄麺を選んでいる』といったお声をいただきます」と話す。
また、ご当地商品といえば、主に観光客が購入するというイメージがあるかもしれないが、凄麺の主な購入者はその地元出身の人々。そのため、売上上位の商品は地域によって大きく変化する。「今では各自治体の方からご当地商品として紹介してもらえる機会が多くなりました」と森田さん。
「『凄麺』を食べて実際にその土地に行ってほしい」
ヤマダイは、凄麺の誕生日である10月29日を「凄麺の日」と制定している。そして2023年は“凄麺の日特別企画”として、9月1日〜10月27日(金)の9時59分までの間、人気No.1凄麺を決定する「凄麺総選挙」を開催している。
「一度目の凄麺総選挙は凄麺の誕生20周年だった2021年に開催していて、前回の評判が良かったので第2回の開催となりました。今回は35種類の商品の中から選んでいただけるうえに、期間中は1日1回投票できるので、この機会にぜひ“推し凄麺”への愛をぶつけていただきたいです。ちなみに、個人の方以外に、各自治体や地元メディアさんも総選挙を盛り上げてくれているんですよ」
かくして、凄麺の開発を通じて各地域との関係性を築いてきたヤマダイだが、今後の展望についてはどのように考えているのだろうか。
「コロナ禍で、『旅行に行けないからご当地ラーメンを取り寄せて食べよう』という動きがありました。ただ、それを一過性のブームにしたくはなくて、弊社としては凄麺を食べていただいてから、実際にその土地にラーメンを食べに行っていただきたいんです。そうすれば地域貢献につながりますし、何よりご協力いただいた地域の方への恩返しになると思っています」
全国各地で愛されるラーメンの味を再現するため、商品開発のたびに地元の人たちと幾度となく話し合い、納得のいくひと品を仕上げているヤマダイ。その熱意がノンフライカップ麺売上No.1たるゆえんであり、これからも地元の人たちの心を掴み続けていくのだろう。
取材・文=西脇章太(にげば企画)