回転看板は残り1基…埼玉県のソウルフード「山田うどん」がトレードマークを変えたワケ

2024年6月18日

回転看板は残り1基!「ファミリー食堂化計画」とは?

冒頭でも紹介したとおり、現在はかかしくんの口元のデザインが変更され、回転看板にいたっては廃止されてしまった。江橋さんによると、その背景には2018年7月に実施された「山田うどん」から「ファミリー食堂 山田うどん食堂」への屋号変更が関係しているという。

「山田うどんはうどんだけではなく、そばやラーメン、丼ものや定食メニューにいたるまで幅広く取り扱っている、いわば総合食堂のような業態です。さまざまな人が楽しめるメニューがたくさんあるので、たとえばご家族で来られて、お父さんがセット、お母さんはラーメン、お子さんがうどんを食べるといった楽しみ方もできます。ですが、看板だけを見るとうどん専門店のように見えていたので、今の業態をわかりやすく表現するべく『山田うどん』から『ファミリー食堂 山田うどん食堂』へと屋号を変更し、リブランドを進めている最中なんです。私たちはこれを『ファミリー食堂化計画』と呼んでいます」

以前の屋号とかかしくんが描かれたロゴマーク。かかしくんの口元がへの字になっている

現在の屋号とリニューアルされたかかしくんが描かれたロゴマーク。かかしくんの口元が笑顔に。屋号の文字も若干細くなり、「食堂」の漢字にはお箸とお椀があしらわれている


このリブランドに際して、店舗外観のデザインも一新することに。かかしくんのデザインのリニューアルと回転看板の廃止はその一環だそうだ。

「ガテン系のお客様は、主要幹線道路沿いのどこに山田うどんがあるか把握されている方が多いので、いつでも来ていただけます。しかしそれ以外のお客様にとっては、古びた店舗に古い回転看板が立っていても、もはや景色の一部でしかなくなってしまって認識してもらえず、実際にお店に足を運んで食事をしようという行動にまでつながりませんでした。なので、その古びたイメージの刷新が必要だと考えました。そこで、新たな外観デザインの基本コンセプトをまとめたところ、山田うどんの象徴であり大切にしていくものとして役員会で挙がったのは、回転看板ではなく、店舗の屋根に掲げられている黄色いバックに赤いかかしのキャラクターが描かれた台形の看板だったんです。役員の誰一人として回転看板に思い入れがなく、大事だとも思っていなかったんですね(笑)。そのため、回転看板を撤去し、代わりに弊社の象徴である台形の看板を掲げました。加えて、その台形看板の下に『うどん・そば・ラーメン・餃子・定食』などの幅広いメニューを書き示すことで、うどん以外も取り扱っている総合食堂であることを訴求しています」

屋号変更後に新規出店された茨城県の結城バイパス店では、回転看板に代わり台形の看板が立っている。また、店舗ごとにバラバラだった建物のカラーも、リブランドにより統一。そして、看板に描かれたかかしくんの口元をそれまでの「への字口」からニコッと笑っているデザインにリニューアルすることで、「従業員一同笑顔でお客様をお迎えしたい」という想いを込めたという。

「屋号を変えて店舗の外観デザインも新しくしてからは、お陰様でファミリー層や女性のお客様も増え、リブランドの効果は確実に表れていると感じています」

なお、店舗リニューアルは全店で完了しているわけではなく、まだ4店舗で回転看板が残っているのだとか。そのうちの3店舗ではすでに回転を止めてしまっているが、埼玉県にある越生(おごせ)店のみ現在も現役で稼働している。いつ越生店の看板の回転を止めるかは未定とのこと。残り1基となった回転看板の雄姿を目に焼き付けるなら今のうちだ。

埼玉県にある越生店の回転看板。いまだ現役だ


店舗に掲げられている社是、「山田の心」。この社是が原点であり、山田うどんのあり方もこの考えに基づいている


「実家のような安心感のある味を提供していきたい」

江橋さんは山田うどんについて、「背伸びしない、安心できる場所でありたい」と語る。

「うどん、そば、ラーメンなどの麺料理は、日本に古くから根付いている食文化だと思います。もともと外国から入ってきたものではありますが、日本人の味覚や嗜好に合わせて常に工夫・改良されて今にいたる伝統的な日常食です。山田うどんの使命は、その日常食である麺料理をリーズナブルな価格で最大限においしく、お客様へご提供することだと考えています。山田うどんは決して、おめでたい日やハレの日に特別に食べるような『超おいしい!』お店ではないと思います。普段着で来て、普段の食事をする。そんなお店です。ですが、何度食べても飽きの来ない、自然と帰ってきたくなる味でありたいと思っています。日常食であるということをよく考えて、その枠からはみ出ないように心がけ、召し上がっていただいた方々に実家に帰ってきたようなホッとする安心感を味わっていただけたらとてもうれしいですね」

この精神に基づき、店舗の外観だけではなく、見えないところでの商品の見直しも行っているようだ。

「2021年10月に劇的なことが起こりました。それまで山田うどんでは、そばの麺に茹でそばを使用していましたが、生(なま)そばに変えたんです。すると、夏場はうどんの売り上げを上回るようになり、『山田うどん食堂』から『山田そば食堂』に変わりました(笑)。ツルッとして喉ごしが良く、すごくおいしいんですよ!冷たく締めたざるそばで召し上がっていただくと、そば粉の風味がより感じられると思います。また、チャーハンは工場で既に調理されたパック品をご提供していましたが、店舗でイチから調理してご提供するオペレーションに変わりました。このようなブラッシュアップを一つひとつ積み重ね、2025年の創業90周年、そしてその先の100周年を迎えられるよう頑張ってまいります」

冷やしざるそば(390円)。生(なま)そばに変えてからは、暑い時期になるとうどんとそばの売れ行きが逆転するようになったという

チャーハン(みそ汁付き560円)

かかしくんのLINEスタンプ


2024年5月23日には、国道16号線沿いに川越インター店を新たにオープンさせた山田うどん。6年ぶりの新規出店だ。生まれ変わった山田うどんは、この先どんな進化を遂げ、どんなおいしさを我々に届けてくれるのだろうか。期待せずにはいられない!

取材・文=小賀野哲己(にげば企画)

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