発達障害の子を持つ親からのメールでスタートした学童向け商品
開発当初はどちらかというと高齢者向けに作られていた快段目盛の定規。好感触を受けて、工業系の現場で使われる製品は次々に快段目盛に切り替えていった。そこにあるメールが届いたそう。
「私たちではECサイトでの直販も行っているんですが、ある日メールが届きました。発達障害のあるお子さんを持つお母さんからで、そこには『集中力が続かない子どもは普通の定規では目盛を読むことに苦労していた。作業療法士の方から快段目盛の定規がいいと聞いたので、ECサイトで購入したところ、子どもが目盛を読めるようになって自信につながった、ありがとうございます』ということが書かれていました。障害の影響で目盛を読むことが困難な人がいる、ということをそれまで知らなかったので、非常に大きな発見でした」
メールをもらった当時、新潟精機ではアルミ製やステンレス製の定規の販売が主流だった。そこで、子どもでも使いやすいアクリル製定規の製造・販売にも注力していったという。

「発達障害に限らず、さまざまな属性を持つ人が使いやすいように工夫を凝らしています。たとえば、薄い定規を拾い上げにくい人のために、厚さに段差をつけることで押して持ち上げられるようにしたものがあります。ほかには、0の位置を内側に下げることで、スタートの位置を当てやすくした『0基点定規』も開発しました」
目盛自体も“2mm点目盛”と名付けた進化版を制作。ミリ単位の目盛の先端に黒い丸を施こしたものだ。

「快段目盛をさらに読みやすくしたい、ということで考えた目盛です。日本人って『に、し、ろー、やー、とう』と偶数で数えますよね。なら、ここに点描を打ってみようということで考案しました」
通常の快段目盛と点描のついた2mm点目盛の両方を作っているのはなぜだろうか?

「より読みやすくなった!という声があったので最初は全部2mm点目盛にしようとしたんです。そしたら、工業系の現場からは点描がないほうがいいという意見も出てきました。点描があると情報が多くなって読みにくいと。使い方や使う人の属性によって見やすいと感じるものが異なる。そこに対応できるようにどちらも作っていこうということで現在の商品ラインナップになっています」
「商売をやっている以上、社会貢献もしていきたい」と語る五十嵐さん。なにがしかの困難さを持つ人でも使いやすい商品を出したい、という姿勢も社会貢献だが、2020年からは小中学校向けに快段目盛の定規を寄贈している。

「当時の三条市の市長と快段目盛の話をする中で、ぜひとも小中学生に使ってもらいたいということで、寄贈が決まりました。三条市内の小中学校と特別支援学級に計1200本の定規を贈りました。その後、三条市内だけではなくて全国の特別支援学級に向けて寄贈をしていこうということで毎年1万本の寄贈に取り組んでいます」
2020年には大成建設と共同開発した「スパイラルメジャー」もリリース。軽く、シンプルで使いやすい新感覚の金巻き尺はグッドデザイン賞も受賞した。


さまざまな人を助ける快段目盛だが、課題はあるのだろうか?
「どうやってより多くの人に快段目盛を知ってもらうか、というのがありますね。定規は100円ショップでも売っていて、安価に手に入れることもできます。そんな中で、快段目盛はどうしても少しお値段がしてしまいます。直販もしてはいますが、やはり文具店などに置いてもらいたいと持ち込んでも、『高いと売れない』と言われてしまうこともあって、なかなか売り場の確保ができていません。定規というアイテムも地味なので、お客様に目盛のよさを気づいてもらうには売り場に相応の工夫が必要になってくるので、なかなかその点が難しいですね」
課題は感じつつも、五十嵐さんの目標は高い。


「世の中の目盛すべてを読みやすくしたいですね。全部快段目盛にしたいです。その一歩として、2025年4月に快段目盛シリーズの分度器をリリースすることになりました。『分度器は数字が多くて使いづらい』という子どもたちの声を受けて開発したのですが、単純に目盛を階段状にすればいいというものではなかったので、完成に行き着くまで苦労しましたが、担当者の熱意もあり、納得いくものに仕上がりました。目盛を階段状にした上で、2度ごとに点描を、5度ごとに赤のマーキングを施しています。数字は一方向のみで書いているので、読み間違いが防げて、両面印刷にすることでどちらの向きからも測定できるようにしました。定規などをうまく使えないというだけで授業につまづくことなく、楽しく学習に向き合っていただけたらと思います。今後もお客様が使った時に『こんなに楽になるんだ』と感じていただけるようなもの作りをしていきたいです」
新潟・三条市から新たなスタンダードが生まれる日が楽しみだ。
取材・文=西連寺くらら
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