「シャドウバース」年間王者決定戦を実況!eスポーツキャスター平岩康佑氏が語る“eスポーツを取り巻く環境”の変化とは?

2024年3月30日

スマートフォン・タブレット・PC向け対戦型オンライントレーディングカードゲーム「シャドウバース」。3月2日、3日には、その年間王者決定戦「Shadowverse Invitational 2024」が開催。並みいる強豪プレイヤーを抑えてルーキーのりざ選手が優勝するなど、波乱の展開となり、大会は大盛り上がりとなった。

本稿では、そんな同イベントで実況を務めた、eスポーツキャスターの平岩康佑氏にインタビューを実施。「Shadowverse Invitational 2024」の感想をはじめ、国内におけるeスポーツを取り巻く環境や、eスポーツキャスターを目指すうえで重要なポイントなどについて話してもらった。

「Shadowverse Invitational 2024」で実況を務めた、eスポーツキャスターの平岩康佑氏


“日本のeスポーツ大会”は世界から注目されている


――eスポーツの世界でキャスターとして活動することに興味を持ち、それを目指すようになった理由・きっかけを教えてください。

【平岩】 2017年に韓国でeスポーツの大会を見たことがきっかけです。ゲームはそれ以前からずっとやっていて、海外でeスポーツが流行っていることも知っていたんですけど、どれほどのものか、実際に見てみたいと思いまして。それで、韓国で行われていた大会を見に行ったところ、そこに広がる光景があまりにも衝撃的で……。海外では、eスポーツの競技シーンがこんなにも盛り上がっているんだ……ということを、そこで改めて思い知らされて、「これはすぐにでも飛び込みたい!」と思い、帰国した次の日には退職届を出していました。

――日本において、eスポーツは今後どのように発展していくと思われますか? eスポーツの将来性や可能性について、ご意見をお聞かせください。

【平岩】 既存のプロスポーツに取って代わることを望んでいるわけではないのですが、若い世代にとっては、プロ野球やサッカーを見るのと同じ感覚で楽しめるコンテンツになりつつあると感じています。eスポーツは視聴者の層がすごく若いうえに、大会は朝から夕方、場合によっては夜までやっているので、他のスポーツと比べても平均視聴時間が非常に長くて。それだけの長時間、視聴者を引き付けられるライブコンテンツとしても、今後ますます強くなっていくと思います。

――アフターコロナとなり、昨年からオフラインイベントも続々と開催され、会場でeスポーツを観戦する機会も一気に増えましたね。

【平岩】 「シャドウバース」は幕張メッセなどで大会を開催していますし、他のeスポーツタイトルも、大型の会場を使って大々的にイベントを実施したりしています。家にいながら配信で気軽に楽しむこともできるし、会場まで足を運んで、その場の熱気を直に感じつつ試合観戦を楽しむこともできる。そうした“新しいエンターテインメントの形”として、国内でもeスポーツは地位を確立していくと思います。

――日本のeスポーツを取り巻く環境は、世界のそれと比べて盛り上がっているといえるのでしょうか?

【平岩】 数年前までは大きく隔たりがあると言われていましたが、いまではほとんど差はないと思います。eスポーツの世界大会の決勝戦を日本で行うこともあるし、大型施設を貸し切って、有観客のイベントを大々的に開催する…といった展開も、よく耳にしますしね。そして、それらの視聴者数/来場者数は増え続ける一方ですし、なんといっても大会の優勝賞金がすごい! 「シャドウバース」の世界大会では、優勝者には1億5000万円が授与されたこともあり、世界中のeスポーツ大会と比べても、これほどの規模の大会はなかなかないですよ。いまでは日本で開催する大会に、海外から大勢のプロゲーマーが駆けつける……という展開も珍しくないので、「国内におけるeスポーツを取り巻く環境は、非常に盛り上がっている」といえるでしょうね。

国内におけるeスポーツを取り巻く環境などについて語ってもらった


選手たちの“人間的な魅力”を伝えることに注力


――最近では、eスポーツのプロ選手だけでなく、キャスターを目指す人も増えてきていると聞きます。その背景や理由について、どのように思われますか?

【平岩】 eスポーツが世の中に浸透して、「自身はプレイしないものの、人の試合を見るのは好き」という人が増えてきたことが大きいですね。どのeスポーツ大会にも必ず実況者は付いているし、大会そのものも増えてきているので、実況ができる人材の需要は高まっている……と言えるでしょう。この流れを見て、選手でなくキャスターになりたいという人が増えてきているのだと思います。

――目の前で披露されたスーパープレイに対して、それを的確に説明してくれるキャスターは、コンテンツをさらに広めていくうえで欠かせない存在といえそうですね。

【平岩】 試合の解説だけでなく、その場に臨む選手たちの心情や、その試合にかける思いなども汲み取って、視聴者に伝えることが僕たちの仕事なので。どの選手に対しても、その選手の“人としての魅力”をしっかりアピールして、ファンの方たちに届けることを心がけています。

――試合展開や技術の解説だけでなく、選手の“人間的な魅力”も伝えることが重要だと?

【平岩】 スポーツにせよ、ゲームにせよ、人を引き付ける要素というのは、結局のところ、「その選手がいかに魅力的な人物か?」という点につきると思っていまして。

――具体的にいいますと?

【平岩】 例えば、高校野球の場合、プロではないアマチュアの試合であるにもかかわらず、毎年、大勢の方が甲子園まで試合を見に行かれますよね? うまい野球を見たいなら、 ふつうにプロ野球を観戦すればいいのに、なぜ、まだまだ未熟な高校球児の試合を見たくなるのか? それは彼らの“最後まであきらめない姿”や、“1点を取るために必死で取り組む姿”を見て、感情を共有し、応援したいからなんですよ。そういった要素はeスポーツにも当てはまるので、選手たちの人となりをどんどん掘り下げていって。それぞれの魅力を視聴者の皆さんに向けて発信していくことが、キャスターにとってもっとも重要な仕事だと考えています。

――「シャドウバース」以外にも注目されている、お気に入りのeスポーツタイトルはありますか? もしありましたら、好きな理由や見どころなども教えてください。

【平岩】 僕自身も実況を担当させていただいている「ストリートファイター6」ですね。これは本当におもしろいです。最近のeスポーツタイトルとしては珍しく、試合形式が1対1なんですよ。他ジャンルでは、3対3や5対5といったチーム戦のタイトルが多いんですけど、これらのゲームの場合、「今回は連係がうまくいかなかった……」といった感じで、負けたときの責任を分散できるんです。それによって緊張を緩和して、落ち着いて試合に臨めるんですけど、「スト6」は個人と個人の戦いなので、勝敗について言い訳ができない。だからこそ、どの選手もものすごい緊張感をもって試合に臨むわけですが、これがモニター越しにも伝わってきて。視聴する側も緊張感をもって見入ってしまうんですね。他のeスポーツタイトルとは一味違う面白味があるゲームですので、気になる方はぜひ、チェックしてみてください。

【写真を見る】「Shadowverse Invitational 2024」で優勝したりざ選手(写真右)と平岩康佑氏(写真左)


要注目の新星・りざ選手の活躍に期待!


――この度の「Shadowverse Invitational 2024」も大盛り上がりとなりましたが、長年にわたり、「シャドウバース」の隆盛を見続けてこられたなかで、今回、特に気になった点などがありましたらお聞かせください。

【平岩】 やはり、彗星の如く現れたルーキーのりざ選手が、初出場でいきなり優勝を果たしたことですね。「シャドウバース」がリリースされてから8年近くが経ちますが、まだこんな、誰も知らない強い選手が世の中にはいるんだ……ということが知れて、僕自身もそうですし、視聴者の皆さんも新鮮な感動を味わえたと思います。特に今回は招待制の大会(2023年の競技シーンで活躍した選手が参加)だったので、誰もが知っている強豪ぞろいのなか、予選枠の大会から勝ち上がってきたルーキーが、彼らを打ち負かして優勝するという……。長年、競技シーンを見続けている者としては心が躍る展開でしたし、これからのりざ選手の活躍にも大いに期待したいと思わせてくれる試合内容でした。

――最後に、これまでのeスポーツキャスターとしての活動を振り返って、特に印象に残っている出来事がありましたら、教えていただきたいです。

【平岩】 高校生を対象に、3人1組でチーム戦を行う「全国高校生シャドバ甲子園」という大会が過去に開催されていたのですが、、試合後のインタビューで、ある選手が何もしゃべれず、黙ってしまったことがあったんです。自分のミスのせいで負けてしまい、その悔しさから、ひと言でも話してしまうと涙があふれてきそうな状況で……。結局、ひと言も話せないまま、ステージから降りることになったんですけど、そんな心境にもかかわらず、咄嗟に勝った選手と握手をして、しっかりと優勝チームを讃えてから壇上を後にしたんです。

その様子はカメラでは映していなくて、たまたま実況席から見えたものだったんですけど、「負けてめちゃくちゃ悔しいけど、勝者をリスペクトして、ちゃんと讃える」という、真剣勝負ならではの醍醐味が感じられて。先ほどの話と少し被りますが、試合の実況だけでなく、そういった選手たちの真摯な思いや、彼らが作り出す独特の雰囲気・空気感といったものも見逃さず、しっかり伝えていくことこそ、僕たちが果たすべき仕事なんだと気づかせてくれた出来事だったので、今でも強く印象に残っています。

取材・文=ソムタム田井

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