――動脈硬化になりやすい人、というのはいるのでしょうか?
【今井】たとえば、ご両親のどちらかが心筋梗塞を起こしているという場合、そうでない方に比べて3倍くらい心筋梗塞の発症リスクがあると言われています。それが、いわゆる「体質」や「遺伝」ということです。ただ、遺伝で100パーセントその病気が起きる訳ではない、ということは言えます。遺伝的な要因と環境の要因の足し算で起きてくるんです。たとえば、双子での研究データで、一卵性双生児は遺伝子が一緒のはずですが、ひとりは日本で暮らし、もうひとりはアメリカで暮らした結果、アメリカで暮らした方のほうが圧倒的に動脈硬化が進んだというデータがあります。そういったことからも、遺伝だけでなく生活スタイルなどの環境も影響することがわかると思います。
ご家族に心筋梗塞や脳梗塞を発症した方がいる場合は、より注意したほうがいいですが、うまく生活を管理したりすることで防げるものでもあります。動脈硬化については、遺伝で必ずなる病気ではないので、逆に言うと努力のしがいがある、ということですね。
――なるほど、遺伝を過剰に恐れ過ぎないほうがいいんですね。今の双子の研究のお話だと、やはり和食のほうが動脈硬化になりにくいのでしょうか?
【今井】そうですね。和食は脂分が少ないですし、野菜を摂る量も比較的多くなります。ただ、和食で注意しないといけないのは塩分です。コロナ禍を経て健康に気を付ける方が増えたのか、近年、日本人の塩分摂取量は減ってきているのですが、それでも1日平均10グラム以上摂っている人が多いです。欧米の食事は逆に、脂分や糖分は多いものの塩分は少ないんです。和食はいいのですが、塩分控えめな和食を食べていただくよう工夫すると、より健康的な生活を送れると思います。
また、私たち日本人が好むものには実はけっこう塩分が多く含まれています。たとえば、最近は朝食に食パンを食べる方も増えているようですが、食パンには塩分が含まれています。1~2枚食べると数グラムの塩分を摂ることになってしまいます。1日に摂取する塩分量は6~7グラムが目安ですので、これだけで1日の摂取量の半分くらいを摂ってしまうこともあるので気を付けてください。
あと、もうひとつ注意してほしいのが食品の「ナトリウム」表示です。最近の食品には塩分量の表示があるものが多いので、ぜひ塩分量の表示を見てほしいのですが、なかには「ナトリウム」表示をしているものもあるので要注意です。塩というのは、塩素とナトリウムからできた塩化ナトリウムですので、「ナトリウム」の量は塩分の一部で、塩分量ではないのです。なので、ナトリウム表示の場合は、下の計算式で塩分量を出してみるとよいでしょう。
ナトリウム量(mg)×2.54÷1000=食塩相当量
――動脈硬化によるリスクというのは、先ほどお話にあった心筋梗塞や脳梗塞以外にもありますか?
【今井】脚に行く血管が狭くなると、その血管を拡げたり、橋渡しする血管を移植するなどの治療が必要になることがあります。最悪の場合には、足を足首あるいは膝の付近で切断しなければならないこともあります。特に糖尿病の罹病期間が長く、重症の場合、注意が必要です。また心臓から出る一番大きな動脈が大動脈ですが、大動脈が膨らんでしまう「大動脈瘤(りゅう)」という病気があります。なかでも特に、腹部にできるものは動脈硬化の関与が大きいといわれています。
また、以下に「動脈硬化の危険因子」をまとめています。動脈硬化の進行を防ぐためには、これらの危険因子をひとつでも減らすことが大事です。喫煙に関しては量を減らすのではなくゼロに。肥満についてはご自身の体重と身長の数値からBMIを算出して、20~25くらいになるようにしましょう。
【動脈硬化の危険因子】
・高コレステロール血症(LDLコレステロール:140mg/dL以上、総コレステロール220mg/dL以上)
・年齢(男性45歳、女性55歳以上)
・高血圧(収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上)
・糖尿病(空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c6.5%以上)
・喫煙習慣
・冠動脈疾患の家族歴(家族に心筋梗塞や狭心症の人がいる)
・低HDLコレステロール血症(HDLコレステロール40mg/dL未満)
・肥満(BMI25以上)
<BMI計算式>
BMI=体重(kg) ÷ {身長(m)×身長(m)}
――動脈硬化の予防のために、食事の面ではどのようなことに気を付けるとよいでしょうか。
【今井】主に、以下のことについて気を付けていただきたいです。
・サバやイワシなどの青魚を食べる。
・野菜や海藻など、食物繊維を多く摂る。
(果物も食物繊維が多いが、糖分が多いので摂りすぎには注意)
・カリウムの多い野菜、果物、豆類、いも類を積極的に摂る。
(カリウムはナトリウムを身体の外へ出す働きをし、血圧を下げる。ただ、腎臓が悪い方はカリウムを摂れないため、担当医師の指導に従ってください)
・高血圧にしないために、減塩に努める。
・動物性脂肪が多く含む、肉の脂やラード、バターなどを控える。
日本人は今、1日平均10~11グラムの塩分を摂っていると言われていますが、6~7グラムに抑えることが理想です。健康に気を付けていても6~7グラムに抑えられている方は少ないので、徐々に減らしていくことを目指しましょう。味噌汁は1杯に塩分が2グラムくらい入っているので、朝晩1杯ずつ飲むとそれだけで4グラム摂ってしまうことになりますので要注意です。また、麺類がお好きな方は多いでしょうが、スープに塩分が多く含まれますので、スープは飲まないほうがいいですね。醤油についても、一滴から欲しい量を自在に調節できるようなボトルのものを使用しましょう。かけすぎを防止できます。
――ほかに、動脈硬化の予防のために有効なことはありますか?
【今井】あとは運動ですね。ただ、運動といっても、休みの日にだけ長時間運動をする、というのは効果的ではありません。1週間に3回以上、1回30~60分(1週間の合計が180分以上)を目安にしましょう。できれば毎日が望ましいですね。時間を取ることが難しい方は、いつもエレベーターを使っているところを階段にする、ということでもだいぶ違いますよ。また、運動の内容としては、勝負にこだわるようなものや、ダンベルのようにいきむ動作のあるものは避けたほうがいいです。ウォーキングやラジオ体操、サイクリング、社交ダンスなどがおすすめです。
ストレス対策も工夫していただきたいですね。ストレスはなかなか避けられないと思いますが、仕事の合間に時間休憩をきちんと取る、十分な睡眠をとるなどが大切です。ずっと緊張している状態は血管によくありません。たとえば、緊張度の高いお仕事をされている方は、動脈硬化が進むというデータもあります。ストレスと血管も密接な関係があるんですよ。
――自分の血管が健康かどうかを知る方法というのはあるのでしょうか?
【今井】ひとつの目安として、内科のクリニックのほとんどで、血管年齢を測る検査ができます(自費)。手足に血圧計を巻いて上半身と下半身の血圧を測ったり、心臓から手足に血液が届くまでどのくらいの時間がかかっているかを計算することで、血管年齢や血管の硬さをある程度測ることができます。心配な方は、この検査を受けていただくといいかもしれません。顔立ちは若くても、血管年齢は実年齢を上回っていた…なんてこともあります。
今井先生のインタビューのなかで最も印象的だったのは、健康だと思っていても、年齢を重ねるにつれ動脈硬化は進んでいるということだ。しなやかな血管を保つために、食事は塩分や脂分に気を付けながら、運動をプラスして、ストレスを溜めない生活を心がけていこう!
取材・文=矢野凪紗