菊正宗酒造
日本酒文化を今に伝える樽酒!
徳川四代将軍・家綱の時代、1659(万治2)年に本格的に酒造業を開始したという菊正宗酒造。360有余年という長い年月の中で、1877(明治10)年に初めてイギリスへ輸出、1927年灘中学校建学に中心的な役割を果たすなど、さまざまな歴史を歩んできました。その歴史を物語る味わいとして注目したいのが、上方から江戸に運ばれる「下り酒」に端を発する「樽酒」です。今は日本酒の容器といえば瓶や紙パックが主流ですが、江戸時代にそんな容器が存在するわけはなく、杉で作った樽に詰められて、樽廻船に乗せて運ばれていました。何日も樽の中で揺られた日本酒は、自然と杉の香りをまとい、江戸っ子たちにとって、杉の香りがついた日本酒が当たり前だったというわけです。
そんな樽酒の味わいを現代に受け継いでいるのが「菊正宗 樽酒」。生酛造りという昔ながらの製法で造った辛口の純米酒を、吉野杉の酒樽に貯蔵し、一番香りの良い飲み頃を取り出し、瓶に詰める。杉の爽やかな香りをまとった芳醇な味わいは多くの日本酒ツウを虜にしています。
「なぜ、樽酒なのか」を知った上で、ぜひ見てほしいのが、2017(平成29)年に開館した「樽酒マイスターファクトリー」。ただの樽酒のミュージアムではありませんよ!こちらの施設、実は樽を作る職人さんたちの工房でもあるんです。館内に入ると、そこには職人さんたちの姿が!長い竹をしならせてタガを巻く様子や、クレと呼ばれる杉板へのカンナがけ、組み立て工程など、樽作りのすべてをみることができちゃうんです。
こちらの樽、釘や接着剤は一切使わず作られているそうで、「本当にそれで日本酒が漏れないの?」とついつい勘ぐってしまいます。ただ、これがまったく漏れない!それこそ職人さんたちが脈々と受け継ぎ、培ってきた技術の結晶で、驚かされることばかりです。
職人さんに話を聞くと、「“正直”と呼ばれる側板と側板が接する面づくりが特に気を使う作業。この面がピッタリと合わさることで一滴の酒も漏らさない樽を作ることができます」と教えてくれました。
いやはや、すごい!江戸に“下れない酒”が“くだらない”の語源となったなど、樽酒の歴史もさることながら、日本酒を貯蔵する樽がどうやって作られているかまで知ることができる「樽酒マイスターファクトリー」。日本酒を普段飲まない人でも、楽しめる施設だと思います。
酒器から見る日本酒のおもしろさ
次に案内してもらったのは、「菊正宗 盃展示館」。菊正宗酒造記念館の名誉館長、後藤 守さんが施設のこと、酒器の歴史など、さまざまなことを教えてくれました。
こちらの施設は2022年(令和4)4月にオープンしたばかり。館内に入ると、ズラリと展示された盃の数に驚かされます。その数、なんと400点!スペースの関係で展示できない盃やお猪口、徳利などもあり、全部で1600点ほどを収蔵しているそうです。
後藤さんは「日本酒の歴史はもちろん、時代の変遷とともに変わってきた酒器にも注目してもらいたいと開館準備を進めてきました。縄文時代に始まり、文献にも記録が残っている奈良時代、平安時代、鎌倉時代、江戸時代など、時代ごとの酒器の変化に触れていただけると思います」と話します。
酒器を見ると、その時代、日本酒がどんな役割を担っていたか、どんな楽しまれ方をしていたかが分かり、「なるほど」「へ〜」「確かに」という発見の連続!歴史好きなら、より気付くことが多いかもしれません。
「菊正宗 盃展示館」では2022年秋から盃や利き猪口、ワイングラスによる味わいの違いを体験できるセミナーを新たに開始予定。今回、特別に体験させてもらいました。
同じ日本酒でも、盃と利き猪口、ワイングラスと酒器が変わるだけで、香りや味わいの感じ方が違うもの。普段、意識していなかったですが、「よりソフトに味と香りが感じられるのは盃だな」など、ここでも発見がいっぱいです。
最後に後藤さんは「酒器はもちろん、常温・ぬる燗・熱燗など、温度による味わいの感じ方の違いもお伝えしていきたいと思っています。今まで日本酒をあまり飲まれなかった方が、『この飲み方は好きかも』『私の好みは香りが良いこのお酒』といった風に、ご自身が好きな味わい、飲み方を見つけていただけたら幸いです」と話してくれました。
●樽酒マイスターファクトリー
住所:兵庫県神戸市東灘区魚崎西町1-9-1
電話:専用ダイヤル078-277-3493(受付時間9:30〜16:30)
見学時間:10:30/14:00/15:00(見学会の予約は2日前までにHP予約サイトから)
開催日:菊正宗酒造記念館休館日を除く毎日
参加料:無料
https://www4.revn.jp/kikumasamune_reserve/
●菊正宗 盃展示館
住所、電話は「樽酒マイスターファクトリー」と同じ
見学時間:11:10/14:40/15:40(見学会の予約は2日前までにHP予約サイトから)
開催日:菊正宗酒造記念館休館日を除く毎日
参加料:無料
https://www4.revn.jp/kikumasamune_reserve/
取材・文=諫山力(knot)
撮影=東野正吾(PHOTOLAND107)