2021年2月、「日の出みりん」で知られる1900年創業の「キング醸造株式会社」がSDGs実現に向けたEC専用ブランド「ORYZAE JOY(オリゼージョイ)」を立ち上げた。展開するのは酒粕やみりん粕といった醸造粕(じょうぞうかす)による、スイーツとスムージー。
醸造粕は発酵食品のため、昔から美容と健康に効果があると言われている。さらに資源を有効活用しているため、2015年の国連サミットにおいて設定された「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献できる、令和を生きる私たちに打ってつけの商品だ。
一体なぜ、醸造メーカーがスイーツを作ったのか?商品開発で苦労したところは?パッケージがシンプルな理由とは?そんな疑問を晴らすべく「ORYZAE JOY」プロジェクトの責任者・竹山慎一郎さんとプロジェクトメンバーの丸井慎太郎さん、蕨野(わらびの)裕哉さんに開発秘話を聞いてみた。
“将来に向けた成長のきっかけになる商品”として若手のみで開発スタート
プロジェクトは、創業120年を迎えるにあたり「記念になるような商品を開発してほしい」という会社の意向を受けてスタート。
「創業当時の商品を復刻するアイデアが一番に浮かびましたが、『120年の歴史の中で培った技術を生かしながら、将来に向けた成長のきっかけになる取り組みに』という意見のもと却下されました(笑)。2019年12月に、マーケティング開発部や営業部、生産本部、国際事業本部など各部署から約10人の若手メンバーが集められ、プロジェクトが発足。真っ白な状態から新商品の開発が始まりました」と竹山さん。
アイデアゼロからスタートしたため、メンバーとの話し合いは何度も行われたそう。「120年の間で培った技術ってなんだろう?今まで手掛けていない商品は何?とメンバーそれぞれが考えて何度も相談し、醸造粕の可能性に着目しました。キング醸造で生成される醸造粕は年間数百トンもあります。現在も漬物の材料や肥料として活用していますが、食物繊維が豊富で栄養価も高い発酵食品なので、人の口に入るものに有効利用できたら…と思い至ったのです」。
“酒粕=甘酒&酒まんじゅう”の発想を破り、真逆から攻める!
新商品のターゲットは、“都心部でバリバリ働く女性”をイメージしているそう。なぜなのだろう?
「醸造粕の利用が決まった時、道の駅で売っていそうな甘酒や酒まんじゅうが思い浮かびました。でもそれは “将来に向けた成長のきっかけになる商品”ではなく、他社が既に作っているものなので意味がないのでは?思いました。そこで逆に、甘酒や道の駅からイメージが最も遠いと思われる層をターゲットにしたら、今まで『日の出みりん』や醸造粕に縁がなかった新しいお客様に出会えるのではないか?と考えるように。その層のイメージが、“都心部でバリバリ働く女性”だったんです」と振り返る。
ひらめいたアイデアを打ち消し、真逆の発想からイメージを固めていく。話を聞くうちに、ゼロから始める開発の難しさと楽しさを垣間見られた気がした。
醸造粕をパウダー化して100種類以上の食品と相性をテスト
次にプロジェクトチームは、日持ちの悪さなどから取り扱いが難しい醸造粕のパウダー化に成功。竹山さんにこだわったポイントを聞くと、「社内で3年ほど前から始めていたパウダー化の研究を引継ぎました。添加剤を加えるとパウダー化しやすいのですが、それでは風味が変わってしまうので、純粋に酒粕だけをパウダー化することにこだわりました」と教えてくれた。
醸造粕を使い、ターゲット層は“都心部でバリバリ働く女性”をイメージし、酒粕をパウダー化…と、順調にプロジェクトが進んだものの、まだ“新商品=スイーツ&スムージー”とは決まっていなかったというから、長い道のりに驚いてしまう。
酒粕パウダーが完成したあと、製品開発課に所属する蕨野さんは酒粕パウダーを持ち歩き、ご飯やおかず、スイーツ、飲み物など、あらゆるジャンルの食品100種類以上にかけて相性をテストしたそう。「1~2か月間続けるうちに、乳製品やチョコレートに混ぜると味が深くまろやかになるということに気づきました。プロジェクト内でも試食を重ね、やっと“新商品=スイーツ&スムージー”に決定しました」と話す。
酒粕っぽさを感じさせないスイーツ&スムージーが完成
意外にも竹山さんは酒粕が苦手で、当初はモチベーションが低かったそう。「でも『せっかく作るならおいしいものを!』と考え、酒粕の風味を全面に出さずコクを生かせるように配合に気を配りました」とのこと。
完成した商品は、ショコラクランチ(カカオ、ミルク、ホワイト)、ショコラサンド(ミルク、ビター)、スムージー(サラダラテ、ジンジャーラテ)の7種。
ショコラクランチとショコラサンドにはベルギーカレボー社製のチョコレートに酒粕が配合され、コクが際立つ品のある味わい。濃厚なので1個食べるだけで満足感が高い。
サラダラテには9種類の植物抽出エキスを配合、生姜ベースのジンジャーラテには5種類の植物抽出エキスを配合している。いずれも酒粕が利用されているうえ、ミネラル豊富な黒糖ときび砂糖が使用されているので、やさしい甘さに仕上がっている。
ブランド名は、和食を支える伝統調味料づくりに欠かせない麹菌(学名:アスペルギルス オリゼー)にちなみ「ORYZAE JOY」に。今や世界中から注目を集める発酵食品を日常生活で手軽に楽しんでほしいという願いが込められているそう。
おいしいだけでなく美容と健康に効果が期待でき、そのうえSDGsにも貢献できると、3拍子そろったスイーツ&スムージー。いずれの商品も酒粕の風味はほとんど感じられないので、酒粕が苦手な人も楽しめそうだ。
まるで化粧品!?「ORYZAE JOY」のパッケージに込められた思いとは?
スイーツのサイズやパッケージデザインに深く携わったのは、マーケティング戦略課に所属する丸井さん。
「社内外でさまざまな世代の女性に声をかけて『今食べている商品を選んだ理由はなに?』『どういうところが好きなの?』と、質問しました。ほとんどの人は明確な理由が答えられないのですが、じっくりと話していくうちに、“ひと口サイズで食べやすい”“個別に包装されているから持ち運びやすい”“噛んでいる音が少ない”“デスクに置いても違和感がない”などの理由が浮かび上がってきたのです」
100人近い女性へのヒアリングの結果を踏まえ、スイーツは個別包装にしたうえで仕事中にもパクッと食べられるサイズに。パッケージは東京都内に暮らす若手デザイナーに依頼して、今までの「日の出みりん」ではありえない超シンプルなものに決定した。
確かに、スーパーマーケットやコンビニエンスストアに陳列される場合は商品名やPRポイントがわかりやすいことが大切だが、インターネットを利用した販売の場合はデザインに求められる要素が違ってくる。消費者の目線に立ち、際限までシンプルを追い求めた「ORYZAE JOY」のパッケージから、プロジェクトメンバーの“ブレないこだわり”を感じた。
SDGsに貢献できるさまざまな商品を日常に
「SDGs」「食品ロス」「発酵食品」といったキーワードへの高まりが感じられる今、丸井さんによるヒアリングは続けられ、蕨野さんも“お初”の食品を見つけては酒粕パウダーをかけて相性をチェックしているそう。
「スイーツ&スムージーにとどまらず、視野を広げていろいろな商品に醸造粕を利用していければと考えています。醸造粕を利用した発酵食品が日常のシーンで手軽に摂れ、同時にSDGsにも貢献できる。そんな新商品をこれからも開発したいです」と竹山さんは熱く語る。その展開は“食品”の枠すら超えるかもしれないというから、今後の開発に期待が高まる。
「ORYZAE JOY」の商品は公式オンラインショップから購入可能。
・ショコラクランチ(カカオ、ミルク、ホワイト)
1種10個入り1パック756円、10個入り4パックセット2700円
・ショコラサンド(ミルク、ビター)
1種5個入り1836円
・スムージー(サラダラテ、ジンジャーラテ)
1種5包入り1080円、30包入り3564円
取材・文=吉田英子