「きかんしゃトーマス」と国連がタッグを組みSDGsに取り組んだワケ「SDGsの話題をトーマス世代に届けたかった」

2021年10月20日

SDGsをテーマにした「きかんしゃトーマス」シリーズは、子供や保護者たちの意識や行動に変化をもたらしたという

「きかんしゃトーマス」といえば、イギリスの絵本を原作とした作品。鉄道模型を使った人形劇作品として見ていたという人も多いだろう。現在、日本では3DCGアニメーションとして放送され、大人にも子供にも広く認知されている。そんな「きかんしゃトーマス」がSDGs促進にひと役買っているのをご存知だろうか。

2018年9月、「きかんしゃトーマス」シリーズと国連が、ジェンダー平等から責任ある消費まで、未就学児に持続可能な開発目標(SDGs)を紹介する共同企画でタッグを組むことを発表。今もその取り組みが続いている。そこで今回、国連広報センター所長の根本かおるさんにインタビューを実施。国連と「きかんしゃトーマス」がタッグを組んだ理由や、この取り組みが子供と大人たちに与えた影響について話を聞いた。

SDGsを子供にどう伝えるか…そのための苦労があった

イギリス発の「きかんしゃトーマス」は日本をはじめ、世界各国で放映され多くの子供たちに支持されている。子供向け映像作品というイメージが強い「きかんしゃトーマス」がなぜ国連と? 「きっかけは、2016年『きかんしゃトーマス』を展開する米国マテル社からのお声掛けからです」と当時を述懐する根本さん。続けて、「国際フレンドシップ・デーの一環として、何か一緒にできないかというお話でした。国連としては、SDGsの取り組みをスタートさせるタイミングだったこともあり、継続的に取り組みができないかと逆オファーしました」と、タッグにまつわる経緯を教えてくれた。

世界230以上の地域・67の言語で放送されている「きかんしゃトーマス」は子供たち、あるいは子育て世代にSDGsを伝えるには最適な“存在”だったという。一方で、いかにもSDGsの啓蒙とわかるようなストーリーにせず、通常の作品と同じテンションで見てもらえる内容にするのには、かなりの苦労もあったという。

まず、子供たちに伝わるような内容でなくてならない。難しい用語やシチュエーションでは、例えなじみのあるキャラクターが登場しても子供は興味を示さないからだ。そこで、SDGsのことはもちろん、エンタメの専門性を持った人たちにも参加してもらい、アニメ制作がスタートしたという。「かなり苦労されたと聞いていますが、でき上がった作品は素晴らしい内容になっています。普段見ている作品と同じテンションで見られ、その中で自然にSDGsについて触れています」(根本さん)

SDGsは17の目標からなる国際目標だが、その中の6つが盛り込まれたアニメーションが2017年に制作・発表され、2018年に欧米で放送された。具体的には、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標6「安全な水とトイレを世界中に」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標12「つくる責任 つかう責任」、目標15「陸の豊かさを守ろう」の6つで、根本さんが話すように、すべて本編に具体的な目標を掲げているわけでなく、見終わった後にその目標について心に残るようなストーリーに仕上がっている。

幼い頃から始まっている「ジェンダーバイアス」をなくしたい

こうした個々のストーリーだけでなく、シリーズ全体を通しての変化もあった。女の子の機関車のニアとレベッカの存在だ。ケニア出身の“ニア”はスワヒリ語で「目的」という意味。芯の強い女の子で、トーマスを励まし勇気づけるシーンが描かれている。また、7台の汽車が入る機関庫には、これまで男の子機関車が6台、女の子機関車が1台だったのが、トーマスを除くと男の子、女の子それぞれ3台ずつとなり、ジェンダーバランスに変化をもたらした。

根本さんは「特にジェンダーバイアスは幼い頃から始まっていると思っています。遊びや色分けなど、男の子はこう、女の子はこう、という無意識な分け方に幼少期から触れていると、子供たちもそうした基準を持ってしまいます。何気なく見ているアニメーションの中で、男の子、女の子ということではなく、それぞれに個性がある、あっていいのだということを感じられるのはとても大切なことです」と話す。

ジェンダーバランスの変化は、「きかんしゃトーマス」ファンにも変化をもたらしたという。ソニー・クリエイティブプロダクツの西岡さんによれば、「登場する機関車に女の子が増えたことで、女の子のファンが増えました。実際、アンケートで『きかんしゃトーマス』が好きと答えた女の子の割合は、2016年は15%ほどでしたが、このシリーズが放送された2019年は22%になりました。また、作品に登場する好きなキャラクターでも、ニアが6位、エミリーが7位です」。このシリーズからはっきり見えた変化だという。

SDGsという話題を“子供に届ける”ことができた

【画像】世界230以上の地域・67の言語で放送されている「きかんしゃトーマス」

国連からのメッセージは大人に向けたものが中心で、“トーマス世代”は手つかずだった。それが、「きかんしゃトーマス」との取り組みにより、子供たちへも楽しくメッセージを発信することができた。また、子供に向けた取り組みではあったが、実は大人にも反響があったという。

「まず、トーマスを見る子供のご両親です。子供と一緒にアニメーションを見て感じることもあると思いますし、子供から質問されることもあります。親子で話をするなかで、知らず知らずのうちにSDGsについて話すことが増えたのではないかと思います」と根本さん。また、JR山手線や私鉄など鉄道会社とコラボし、SDGsラッピング車両が走ったり、車内のサイネージ広告でも「きかんしゃトーマス」の画像が流れたことで、鉄道好きの人たちをはじめ、多くの人が関心を持つきっかけにもなった。

幼少期に「きかんしゃトーマス」を見て、アニメーションを楽しみながら感覚的にSDGsに触れる。SDGsという難しいテーマを親しみやすいキャラクターとコラボすることでハードルを下げられたことは大きい。小学生になると、学校の授業でSDGsについて学ぶようになる。こうした流れができたおかげで、SDGsに対する認知度は2021年4月の民間の調査では全体で50%超だが、10代では実に7割にもなるという。

SDGsをどう実践するか?みんなで考えていってほしい

「SDGsを言葉として知っているという程度から、17の目標をすべて知っているという人まで、その理解度はさまざまですが、着実に認知されてきています。次はどうアクションを起こしたらいいか。家庭や学校、職場などの単位で自分たちが今、できること、やるべきことを考えていってほしいと思います」と根本さん。

「きかんしゃトーマス」によって、SDGsについて幼い子供から大人まで広く知られるようになった。だが、これはまだスタートラインでもある。肝心なのはこれからのアクション。まずは目の前のことから、できることから一歩踏み出すことが大切だ。きっとトーマスやニアたちも背中を押してくれるだろう。

(C)2021 Gullane (Thomas) Limited.