2030年のゴールに向かって、世界中でSDGs(エス・ディー・ジーズ/持続可能な開発目標)に関する動きが加速している。名古屋発祥の喫茶店「コメダ珈琲店」を運営する株式会社コメダも、独自の目線でさまざまな取り組みを進めている企業のひとつ。今回は、サステナビリティ推進室の間宮彩乃さんに、具体的な取り組みについて話を伺った。
1杯のコーヒーを飲むことから始めよう
――SDGsの取り組みに力を入れ始めたきっかけを教えてください。
【間宮さん】以前からESG経営(環境・社会・企業統治を意識した経営)の推進はしていましたが、2018年に創業50年を迎えて、これからの50年、社会にどう貢献していくかを考えていたとき、世界60カ国以上でコーヒーやカカオなどの原材料調達をしている世界最大の飲料・農産物事業会社のオラム(Olam)社と出会いました。オラム社は400万戸以上の生産農家に、栽培技術の提供などさまざまなサポートをすることで、持続可能な生産・調達に力を入れています。まさに生産農家と一緒に公正な取引の実践と持続可能な社会の実現を目指していて、コメダもこの姿勢に共感をしたんです。コメダはお客様にコーヒーを提供するだけでなく、生産農家の課題、生産地の環境なども一緒に解決する責任があると、改めて考えたことがきっかけです。
現在、コメダのコーヒーは100%オラム社のコーヒー豆を使用しています。お客様がコメダでコーヒーを飲むことが、巡り巡ってコーヒー農家の支援に繋がっている。このようにお客様がいつも通りコメダでくつろぐことで、無理をせずにSDGsに貢献する仕組みを作ることが、コメダにおけるサステナビリティ活動の基本です。
――コメダでただいつものようにコーヒーを飲むことで、貧困問題や環境保全に貢献できているとは思いませんでした。知ることで、もっとコメダを利用しようと思いました(笑)。
【間宮さん】コメダは、街のリビングルームとして「くつろぐ、いちばんいいところ」をご提供してきました。SDGsの取り組みにおいても、お客様のくつろぎの邪魔になっては意味がありません。押しつけでなくSDGsの目標達成に自然と貢献できるような、小さな取り組みをコツコツと積み重ねていきたいと思っています。
SDGsは難しくない!
――店舗に掲示しているSDGsカードも、とても興味深く拝見しています。本当にちょっとしたことがSDGsに繋がっているのだということを、改めて教えられました。
【間宮さん】このカードを目にしたお客様がSDGsを知り、社会にはさまざまな課題が山積していることを知って、日常の中でほんのちょっと意識と行動を変えていただけるきっかけになれば…と掲示を始めました。日々種類が増えており、今では90種類以上になりました。店舗だけでなく、事務所や工場にも掲示しています。当初は私たちが内容を考えてカードを作成していましたが、最近ではお店のスタッフさんから「こういうことを伝えたい」という相談が多く寄せられるようになりました。
――SDGsの啓発活動としては、2020年7月に大和証券とコラボしてオープンした吉祥寺西口店が大きな話題になりましたね。
【間宮さん】SDGsの情報発信基地として、サステナビリティを身近に感じられる工夫を凝らした店舗です。たとえば、先ほどのSDGsカードも掲示していますし、コーヒーをご提供している有田焼カップは、本来は使えるのに規格外品として廃棄されてしまうカップを「ステナイカップ」として再生して使用しています。このカップも生産者の方が愛情を込めて一生懸命作ってくださったものですし、もったいないですからね。
ほかにも、バイオマスストローの使用、環境にやさしい素材で作ったメニューブックなど、いろいろな取り組みを行っています。スタッフのユニフォームは、破棄される野菜で染めたものです。また、卓上に設置されたタッチパネルでは、コメダと大和証券両社のSDGsに関する活動を知ることができます。学校でSDGsを勉強している子供たちの方が詳しいこともあるようで、ご両親に教えている場面を目にすることもありますよ。家族みんなでSDGsについて考える機会になっているようで、うれしいですね。
たまには肉を休もう
――もうひとつ、コメダで気になる店舗があります。同じく2020年7月にオープンした「KOMEDA is □(コメダイズ)」は、従来のコメダとは全く違うメニューですよね?
【間宮さん】はい。こちらは100%プラントベース、つまりすべて植物由来のメニューを提供しています。実は、畜産から排出されるメタンガスは、地球温暖化の大きな原因のひとつと言われています。「KOMEDA is □」で提案しているのは、「お肉を休む日を、つくろう。」です。
畜肉や動物性の食品を食べることが悪いと言っているわけではありません。押し付けないのがコメダのSDGsですから、プラントベースで作った食事のご提案です。しかし、いくら環境にいいからといって、おいしくなければ食べ続けることができませんから、サステナブルな取り組みにはなりません。そのため、味にもとことんこだわりました。看板メニューの「べっぴんバーガー」は大豆ミートのパテを使用していますが、お客様からは「本物のお肉かと思った!」と驚きの声をいただいています。
1周年を迎えた2021年7月15日から、プラントベースの「シロノワール」も仲間入りしました。乳製品を一切使用せずサクサクふわふわのデニッシュパンを作り上げるのは大変でしたが、苦労の甲斐もあり皆様にも満足していただける商品になりました。「コメダ珈琲店」のシロノワールと少し違い、さっぱりとした優しい甘さに仕上がっています。
くつろぎの場所を持続させるために
――コメダでは、サステナブルな取り組みに繋がる企画も数多く実施されていますね。
【間宮さん】コメダでは、サステナビリティ活動を「KOMEDA COMES TRUE. with YOU」という合言葉で推進しています。ここには、お客様、生産農家の方、FC加盟店、コメダ本部、コメダに関わる皆で一緒に持続可能な社会について考え、取り組んでいきたいという想いが込められています。
現在は、コメダが制定した「くつろぎの日」9月26日から12月31日(※現在は終了)まで「くつろぎの持続化投票」を実施中です。コメダのくつろぎに欠かせないコーヒーを持続的に生産していくために、生産地の「女性活躍」「子供の学習」「環境保全」の3つを皆様と一緒に考える取り組みとして選びました。この中からお客様が応援したいと思うテーマに投票していただき、一番多くの票を集めたプロジェクトを2022年に実行します。お店のポスターや卓上にあるPOPのQRコードからアクセスして、投票いただけます。
投票時にコメントを記入できるようになっており、皆様からの熱いメッセージをたくさんいただいています。
――最後に、コメダが目指すゴールについてお聞かせください。
【間宮さん】SDGsは2030年にゴールを迎えます。しかし、サステナブルな活動にゴールはないとコメダでは考えています。そのため、あえてゴールは決めていません。ずっとやり続けていくべきものですし、これから新たな社会課題も出てくると思っています。コメダがやるべきことを、できることから、コメダらしく地道にコツコツとやっていこうと考えています。くつろぎをご提供しながら、皆様と一緒により良い社会にしていきたいですね。