2030年の達成に向けて世界的にSDGs(エス・ディー・ジーズ/持続可能な開発目標)への関心が高まりつつある昨今、日本でも各企業でオリジナリティ豊かな施策が行われている。今回は、工場の敷地内に森を作り生態系ネットワークを形成する取り組みや、トヨタ生産方式のノウハウを活かし、植物工場でベビーリーフを栽培することで「食」を通じて持続可能な社会に貢献する自動車部品メーカー・豊田鉄工株式会社に取材した。
本社の跡地を活用して“トヨテツの森”整備へ
豊田鉄工本社工場の敷地内に広がる、緑豊かなトヨテツの森。約4800平方メートルもの広い森を作るきっかけとなったのは、“人と自然が共生するあいち”の実現をめざして2013年に策定された「あいち生物多様性戦略2020」だ。
「ちょうど本社社屋の建て替え時期と重なり、跡地を有効活用して森を作ることになりました」と話すのは、環境室室長の松尾義久さん。自然を持続可能な形で将来へつなぐ生態系ネットワークの構築やビオトープの整備、また緊急時の避難場所としての活用もめざして森作りが行われたという。
矢作川と丘陵・田園地帯を結ぶ生態系ネットワーク
トヨテツの森の重要なミッションは東側の矢作川水域と西側の丘陵・田園地帯を結ぶ生態系ネットワークの構築だ。互いの中央にあたる森やビオトープを作ることで各エリアに生息する生物や昆虫の相互移動を可能にし、豊田市内における生育環境をつなぐことを目的としている。「弊社だけではなく、近隣にも同じように生態系ネットワーク形成に取り組んでいる企業がありますので、連携を取りながら森づくりを進めています」と松尾さんはいう。
自分たちの手で、守り、育てる
トヨテツの森には多種多様な木々が植樹されている。2019年からは、毎年5月22日午前10時に豊田鉄工株式会社の国内外の22拠点が一斉に植樹を行う「グリーンウェーブ」活動が行われ、ますます種類も増えているそうだ。また、木々が密集する場所では鳥の巣も確認されている。「最近では、巣作りにプラスチックが混じっていることがあります。鳥の棲む世界にとっても、環境問題は深刻になってきていることがわかります」と松尾さんは話す。
さらに森の中には、虫たちが敵から身を守ったり越冬するために植えられたチガヤや、生き物の生育空間となるビオトープエリアもある。ビオトープの池にはモロコやシラハエ、カワムツなどの魚が生息している。「季節ごとの草刈りや木々の剪定、ビオトープの堆積物処理、外来種の管理など、OBの方々の協力も得ながら、自分たちで行っています」(松尾さん)
体験イベントを通して、豊かな自然を未来へつなぐ
こうした取り組みのもと、現在、トヨテツの森には昆虫約200種、鳥類約20種、その他の生き物約10種類が生息するという。専門家を交えて年に3〜4回行われる生き物調査では、珍しい蝶やトンボの幼虫、渡り鳥の巣や卵が見つかることもある。
またこれらの生き物を実際に観察することで子供たちに生物多様性や自然共生の重要性を学んでもらおうと、従業員とその家族を対象とした「TOYOTETSU EARTH KIDS PROJECT」も季節ごとに開催している。
「トヨテツの森を散策して植物や生き物を観察してグリーンマップを作ったり、トヨテツの森で採取できるヤマモモを使ってジャムを作ったり、とても好評です。学校ではできない体験を通して、街の中にもこうした生き物が生息することや、豊かな自然を未来へつないでいくことの大切さを実感してもらいたいと思っています」(松尾さん)
今後も豊田市と連携してイベントを行うなど、従業員の家族だけではなく一般の人々にもトヨテツの森のすばらしさを広めていきたいと話す松尾さん。事前に予約をすれば誰でも見学ができるので、ぜひ訪れてみてはいかがだろう。
森だけではなく、食でも持続可能な社会へ貢献
会社を上げて積極的にSDGsへの取り組みを行う豊田鉄工は、2018年から植物工場を設立し、ベビーリーフの水耕栽培も行っている。自動車部品のメーカーがなぜ野菜づくりを?とアグリカルチャーR&Dセンター長の堀口誠司さんに尋ねると「就農人口の減少や現代人の野菜離れなどが問題視される今、“食”を通じて、持続可能な社会づくりに貢献したいと考えて取り組むことになりました」とのことだ。
無駄のない『トヨタ生産方式』で栽培
ベビーリーフは、『トヨタ生産方式』を活かして作られる。『トヨタ生産方式』とは、必要な分だけ作り、無駄を出さない方式だ。「ベビーリーフは約15〜20日で収穫、出荷できるので事前に受注量を把握し、生産量をコントロールしています」と堀口さん。「スタッフが作業しやすいよう、設備や生産レイアウト、作業方法などを工夫して効率化も図っています」(堀口さん)
残渣の再利用で新たな取り組みも
栽培には鉄鋼の副産物である排出CO2を有効活用し、ベビーリーフの光合成や成長促進に役立てている。また収穫したベビーリーフは地元のスーパーなどで販売され、県内の飲食店にも展開している。これも、地産地消によるフードマイレージの削減から低酸素社会の実現に貢献した取り組みだ。
さらに露地栽培もスタートさせ、ベビーリーフの生産で出た残渣を堆肥化し、肥料として活用する取り組みも行う。「豊田鉄工はベビーリーフ以外の野菜づくりにも挑戦しています」と堀口さんは笑顔だ。
えぐみが少なく食べやすいベビーリーフミックス商品は全6種類。いずれも美と健康をテーマに、安全・安心にも配慮した栄養豊富な商品だ。他にも、食を楽しみながら野菜を摂取することができる商品を数多く展開。モノづくりのプロたちが手がける取り組みは、人々の豊かな食生活と健康づくりにつながっている。