【SDGs】異業種とコラボし、真鍮の端材を利用したインテリア「SHINK。」を発足

2022年2月4日

2030年の達成に向けて世界的にSDGs(エス・ディー・ジーズ/持続可能な開発目標)への活動が盛んになりつつあり、各企業でもさまざまな取り組みが行われている。今回は、製品製造の際に出てしまう端材・廃材を利用した新たな商品づくりにチャレンジする進興金属工業株式会社に、その取り組みについて話を聞いた。

進興金属工業株式会社がデザイナーと共同制作を行う、真鍮を使った照明器具


コロナ禍に舞い込んだ、新たなモノづくりの話


1951年の設立以来、現在は主に産業車両関係に関する切削加工全般や加工部品の表面処理、組み付けなどを行う進興金属工業株式会社。これら従来の仕事に加え、2020年からはインテリアという新たな分野へのものづくりに取り組んでいる。きっかけは、新型コロナウイルス感染拡大による仕事への影響だ。「2020年の5〜9月にかけて仕事が一時的に停滞し、大幅に売上がダウンしました。先行きが見えない中で何かしなくては、と思っていたところに、工場長からの話が舞い込んできたのです」と社長の志水嘉津彦さんは話す。

「当社に廃品回収に訪れるトラックの運転手が、岡崎でクリエイティブ活動を行う集団『C& NEO』のひとりでした。インテリアが好きな工場長と気が合い、“一緒に何か作りませんか?”と声をかけられたのがきっかけです」。インテリアデザインという、製造業からはあまりにもかけ離れた業界からの申し出に、最初は戸惑ったという志水さん。しかし、「お金にならなくても一度挑戦してみよう」と決意。『C&』が行うイベントに向けて、作品作りを始めたのだ。

社内のモノ、機械、人の活用がミッション


志水さんがプロジェクトメンバーに与えたミッションは「社内にある端材・廃材、機械、人で作ること」。まずは志水さんとプロジェクトメンバー3〜4人がデザイナーとともに工場内を回り、どんなものを作りたいのかをミーティング。皿やフォーク、一輪挿しなどさまざまなアイデアが交わされた。「その中で、真鍮の丸棒の端材を利用した照明器具や一輪挿しという案が出て、それはおもしろいと思いました。もともとモノを削るのが自分たちの強み。照明器具ならその技術を活かせると思ったのです」と志水さんはいう。こうして真鍮を使った照明器具や一輪挿しづくりが始まった。

【写真】デザイナーとともに開発を検討。会議では多角的かつ専門的な意見が飛び交う


デザインの途中では、お互いの意見のすり合わせに苦労したともいう。「同じモノづくりを行う者同士でも、デザイナーと私たちでは価値観が違う。デザイナーはより美しいデザインを求めて絵コンテを仕上げてくるが、実際に切削する際は絵コンテ通りに削れない場合もあります。通常、我々が仕事を受ける場合は、発注主は私たちの得意・不得意をよく理解して完璧な図面を渡してくれるので、こうしたことはまず起こらない。今回はどこで折り合いをつけるかが大変でしたが、その分新鮮な刺激になり、楽しくも感じました」と志水さんは笑顔で話す。「これまで行ってきたこととは違うモノづくりに、仲間と協力しながら取り組む中で、あらためて自分たちの力を知ることができました」

デザイナーの絵コンテを見ながら、できること、できないこと、どうすればできるのかを意見交換する

実際に試作をしながら、商品化の検討を重ねていく

工場内にある機械を使って真鍮の切削を行い、商品を作る


“風化の経緯”を楽しんでもらえるように、パッケージにもひと工夫


商品に使う真鍮は空気に触れると酸化する性質のため、照明器具も一輪挿しも真空パックで包装される。これも志水さんたちにとっては初めてのことだったという。昨今のインテリアは経年による熟成を楽しむ傾向が見られることから、社員のアイデアにより表面にブラスト加工を施して、見た目も熟成を長く楽しめるような工夫もした。「商品を購入して、真空パックを開けたところから商品の熟成が始まる。それもお客様に楽しんでもらいたいと考えています」

完成した商品は、2021年1月に行われた『C&』のイベントで展示販売。一輪挿しは期間中に完売。照明器具もその時は展示のみだったが、その後に予約が入るほど好調なスタートを切った。2021年8月8日にはウェブショップを開設し、一般販売を開始。新ブランド「SHINK。」の本格的な立ち上げが始まったのだ。

真鍮の芯を緻密に削り出し、丸棒そのままの形を活かした「cylinder lamp」

真鍮の表面にはブラスト加工が施され、独特の風合いを生み出している

2021年に大名古屋ビルジングで行われた展示イベント「C& NEO LIFE STORE」で、照明器具を展示

商品として販売した一輪挿しは好評を得た

イベントでは、真鍮とステンレスパイプを組み合わせたモニュメントも展示

真鍮の酸化を防ぐために試行錯誤の末、真空パックで販売することを考案。「これまでやったことがないことをする機会が多く、新たな力になる」と志水さん


新×THINK〜新たなる創造〜


「SHINK。(シンク)」というネーミングは、工場長が考案。「SHINKOのOを。に変えました。SHINは新しいという意味で“新×THINK”の造語です。社内にある端材を再利用し、商品を生み出すことで、大事な資源であることへの気づき、そして新しい価値を生み出す力があることを知ってもらいたいと考えています」。その思いは社員に伝わり始め、中には「自分も携わってみたい」という声も上がり始めたという。

「SHINK。の商品を自分の知り合いにアピールしてくれる社員もいます。ありがたいですね」と志水さん。SDGsに対してもより一層、力を入れているという。「もともと私たちの仕事はSDGsを意識せずに成り立ちませんが、SHINK。のモノづくりも含めてSDGsに関する勉強会を開催し、さらに社員の意識向上を図る努力をしていきたいです」

ブランドロゴもデザイナーからいくつかアイデアが出され、検討を重ねた

社内には、SHINK。に関するギャラリーを設置。商品の展示のほか、これまでの制作ヒストリーも紹介。これを見て「自分も作りたい」と思う社員もいるそうだ


SHINK。を通して独創性と発想力を養い、本業にも活かす


2022年4月以降には、SHINK。を社内で組織化することを検討している。「SHINK。のモノづくりを通して独創性と発想力を養い、最終的には本業のモノづくりにも反映していくことができればいいと考えています」と志水さんは力を込める。

「これまでは下請け企業として、まずは図面どおりに完璧に仕上げるということを大切にしてきましたが、“お客様はこの商品をどう使うのか”“どうしたら使い勝手がいいのか”と、お客様の手に渡った先のことまで考えられる人を育てていきたい。また、SHINK。については産業部品と違い、より身近に感じられることもあり、使い勝手はもちろんですが、見た目のかっこよさや可愛さなどの感性をさらに追求していきたいと考えています」

洗練されたフォルムが美しい一輪挿し。現場リーダーの友人、生花店の顧客であるギャラリーにて展示

照明「snow cap」の傘上部にも真鍮を使用。独特の質感と色合いが、照明に存在感を与えている


今後は照明器具の展示会出展も検討中。照明器具以外の製品についても「海外で販売したい」という声も上がっている。「事業計画はこれからですが、この事業に携わろうという社員が1人でも増えて、もっと創造力や技術を高めよう、という刺激につながってくれたら嬉しいですね」

新型コロナウイルスの影響で思いがけず生まれた時間、新たな人や協力企業との出会い、発想の転換。これらのすべてが見事にシンクロして生まれた「SHINK。」は、社内はもちろんのことインテリア業界にも新しい風を起こすフックとなりそうだ。

真鍮製の傘立て。下の受け皿部分は、岡崎市の石材会社とコラボ。「SHINK。を通じてこれまでならつながることがなかったであろう異業種とのつながりも増えてきています」

これからも新たなモノづくりを追求し続ける進興金属株式会社