米づくりから働きやすい職場づくりまで、豊かなアイデアがそのままSDGsの取り組みに

2022年3月1日

2030年の達成に向けて世界的にSDGs(エス・ディー・ジーズ/持続可能な開発目標)への取り組みが活発になり、各企業で多様な活動が行われている。今回は、自社での米づくりや酒粕の再利用、働きやすい職場づくりなど多岐にわたって取り組みを行う関谷醸造株式会社の活動を紹介する。

奥三河の豊かな自然に囲まれた場所に位置する、関谷醸造株式会社


2つの蔵を持つ老舗醸造場


元治元年(1864)の創業以来、150年余にわたって酒造りを行う関谷醸造株式会社。現在は7代目の代表取締役社長、関谷健さんがその暖簾を守り続けている。

関谷醸造は2つの蔵を持つ。本社では奥三河の軟水を生かした飲み口の優しい酒を醸造。豊田市にあるほうらいせん吟醸工房では、ミネラル感の強い水を使った飲みごたえのある骨太の酒を造っている。「本社では、1つのタンクで総米2トンの仕込みをするので約4000リットルの酒ができますが、時代の変化で少量多品種の酒が求められるようになり、吟醸工房ではそれに対応した酒造りを行っています」と関谷さんは話す。

【写真】奥三河の山中からこんこんと湧き出る清冽な水を酒造りに使用

少量多品種の酒造りを行うほうらいせん吟醸工房は2004年に設立


機械化による労働時間短縮と蔵人育成を両立


酒造りといえば、佳境になると蔵人は朝早くから夜遅くまで仕込みを行うイメージがあるが、「本社の蔵は、18時以降は誰もいなくなります」と関谷さんはいう。「温度制御などは機械にまかせ、人の手でしか行えないことを行う。トラブルが起こった時にだけ担当者が対応する、という仕組みにして、重労働を強いることはやめました」(関谷さん)

ただし、機械まかせで酒造りの基本を知らない蔵人が育つのを懸念して、吟醸工房では昔ながらの仕込みで酒を仕込む。「少量多品種だからできることです。“手作りへの回帰”を目的に、若い蔵人の育成にも力を入れています」

ほうらいせん吟醸工房では手作業で製麹を行う


地元の耕作放棄地を引き受け、米づくりをスタート


関谷醸造では、2006年から酒の原料となる米づくりにも取り組んでいる。きっかけは地元の農家との交流だった。「高齢化が進んで後継者もなく、耕作放棄地が増えてきたと聞きました。ちょうど株式会社が農業に参入できる国の政策が始まり、自社で米づくりに取り組んでみようと決意したのです」

リタイアする農家で預託先のない水田を引き受けて耕作地を広げ、現在は34.5ヘクタールもの水田で米作りを行っている。今年も2〜3ヘクタールの耕作地が増える予定だ。

水管理システムでスタッフの作業を軽減


いざ米づくりを始めてみると、さまざまな課題があることに気づいたと関谷さんはいう。「現在、水田は約250枚ありますが、山間地という条件上1枚の面積が小さく、その分人の手がかかります。また水が引きづらい水田や、長い間放棄されていたために雑草がびっしりとはびこった水田もあります。5人のスタッフで管理しますが、作業履歴や作業の重複が起きないようにするための事務的な労力は非常に大きくなります。こうした課題を解決するために、情報端末を使った圃場管理システムや水位センサーを導入することにしました」(関谷さん)

誰が何時にどの作業をしたのか、タブレットに入力することで重複ややり忘れを防ぐ。これにより、水管理作業や事務作業の軽減はもとより、米トレーサビリティ法への対応もできるようになった。こうした取り組みが認められ、生産者として世界基準の農業認証である「グローバルGAP」や、一部の圃場は農薬および化学肥料を使わない「JAS有機認証」を取得している。

畝づくりから田植え、収穫まで行う。水田1枚あたりは約1反(1000平方メートル)の大きさだ。

スマートフォンやパソコン、タブレットなどで作業履歴や水管理。水位やお互いの作業状況がどこでもひと目でわかるように。

センサーにより水位がすぐにわかるようになったおかげで、スタッフの作業が大幅に軽減された


酒粕や籾殻、米ぬかを牛の飼料に


こうした米づくりの過程で出る籾殻や米ぬか、酒粕のリユースにも取り組む。「昔は家庭で漬物をつける機会が多く酒粕もよく利用されましたが、今はその機会も減りました。また甘口の酒を造る時に使う麹菌は変色しやすいものがあり、酒粕として販売することができずに廃棄するしかありません」と関谷さん。「なんとか再利用できないか、と考えていたところ、地元の畜産家の方が牛の飼料に使おうといってくださったのです」

酒粕に加えて籾殻や米ぬか、廃棄になるくず米も混ぜた飼料を開発。「酒粕の香りが食欲を刺激するのか、牛が以前より飼料をよく食べるようになったそうです」と関谷さんは笑顔で話す。

酒粕や米ぬか入りの飼料で健やかに育つ牛


自家発電によって電力のピークカットも実現

関谷醸造では2010年から自家発電も行っている。きっかけは2009年に発生した台風によって国道沿いの電柱が倒れ、停電したことだ。「ちょうど酒造りのシーズンで、電気が通らず何も作業ができなくて本当に困りましたね」と振り返る関谷さん。

それ以降「自分たちでできることは最低限何でもしよう」と、バイオディーゼルによる自家発電システムを採用。非常時だけではなく、時間帯によっては自家発電を併用することで電力のピークカットができるように。電気代を抑えるだけではなく、環境資源の保全やCO2排出削減にも貢献しているのだ。

ダンボールの再利用でゴミの削減に取り組む


また、酒瓶のダンボールの再利用にも取り組んでいる。「瓶の業者さんから送られてくるダンボールの量がとても多く、廃棄するのはもったいないと」そこで、関谷さんは自社のダンボールをこれまでより丈夫なものに変更。瓶メーカーにそのダンボールを使ってもらって瓶の仕入れを行い、酒を詰めた瓶も同じダンボールを利用して出荷するようにしたという。こうした小さな取り組みの積み重ねは、ゴミの削減だけではなくお互いの利益にもつながっていると関谷さんはいう。「瓶の業者さんのコスト削減にもなり、ダンボールを使わない分、仕入れの値段を引いてくれる。まさに一石二鳥です」

ダンボールシュレッダーを通して、緩衝材に生まれ変わったダンボール


女性が働きやすい職場づくりも推進


これら環境やモノに対するSDGsへの取り組みだけではなく、働く人や地域活性化のためにも持続可能な職場づくりを進めている。「当社はアルバイトやパートを含め、全体の半数が女性なので、以前から産休や育休制度はしっかりと整備し、働きやすい職場づくりに取り組んできました」と話す関谷さん。

地域柄、就業人口が少ないことも考慮してのことだ。「せっかく就職しても、子供が生まれたらやめざるを得ない、となるとうちも人手に困ってしまう。子供を生んでもまた戻ってきてもらえるような環境づくりが重要だと思っています」

努力が功を奏し、関谷醸造の離職率はかなり低いそうだ。さらに、酒のギフトボックスや首掛けは、地元の障害者施設に委託するなど、余分な人手の削減にも努める。「単純な軽作業はアウトソーシングをして、社員やパートさんにはやるべきことをやってもらう。人材育成になるとともに、障害者の方々のスキルアップや生きがいにもつながっていると思います」と関谷さんは確信する。

障害者の人たちが丁寧に組み立てる酒のギフトボックス

葉の形がおしゃれなリキュール類の首かけも、障害者の人たちの手によって作られる


持続可能な取り組みで、社員や取引先、地域とWin-Winの関係に


関谷さんはこれらの活動を「SDGsを意識してやっている、というわけではなく、問題を解決するためにどうすればいいか考えて行っていたら結果的にSDGsへとつながっていました」と話す。「問題を解決することで、会社だけではなく社員や取引先、地域とともにWin-Winの関係になることが大切。今後も地域がもっと元気になり、みんなが持続可能な暮らしができるような取り組みを行っていきたいと思っています」

「無理やりにではなく、自分たちで前向きに課題解決へと取り組まないことには、SDGsにはつながらないでしょう」と話す関谷さん

関谷醸造は多角的な事業や活動を展開。「道の駅したら」には酒造り体験の工房をオープン。多くの人が体験を楽しんでいる

外食事業も展開。「SAKE BAR 圓谷」では関谷醸造の酒が気軽に味わえる

レイヤード久屋大通にある「糀MARUTANI」では、糀を使ったアイデア豊かな一品と酒が楽しめる

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