「日本の福祉をアップグレード」という理念を掲げ、子供から高齢者まで幅広い福祉サービスを展開し、多様な社会貢献活動を続ける日本福祉協議機構。福祉や介護に対する新しい取り組みが注目を集めている。代表の濱野剣さんに、立ち上げのきっかけや活動内容、今後の展開について話を伺った。
もともとは不登校や引きこもり、非行の更生に携わる施設で働いていたという濱野さん。しかし、思うようにきちんとした対応が行われていない現実を知ったという。「正しいと思うことは、自分の手でやるしかないと思った」と2009年に「一般社団法人日本福祉協議機構」を設立。当初は引きこもりや非行少年の預かり、更生を行っていたという。「一緒に生活をしながら更生を行っていました。警察から呼び出されたりといろいろ大変なこともありました」とその時のことを振り返る。
日々の活動の中で地域の民生委員と関わるうちに、障害者支援へと気持ちが動いたと濱野さんは話す。「例えば親が病気になった時、障害を持つ人はたちまち困ってしまう。ネグレクトの場合もそうです。こうした緊急時に対応できる場所を作りたいと思いました」と濱野さんは2010年にはデイサービスを始業。濱野さんの考えに賛同するスタッフの協力も得てショートステイやヘルパーステーションを次々と開設した。
「そのうち、子供たちを預かってほしいという声がたくさん聞かれるようになり、放課後デイサービスも開始しました」と濱野さん。能力探求スクールも開設し、それぞれの個性や能力を伸ばす活動も行ってきた。
しかし、放課後デイサービスで関わった子供たちが高校を卒業しても、働く場所がないという問題が浮上。「障害者の就労施設というとどうしても暗いイメージがつきまとい、実際にそういうところも多い。でも見かけだけキラキラとしていればいいかといえばそうではない。やりがいを持って働くことができ、正当な賃金が支払われる。そんな場所を作りたいと思いました」と濱野さんは話す。
濱野さんは「生き物や花が好き」という障害を持つ子供の意見に発想を得て、2017年に世界の植物と昆虫を扱う「アペロ・ヒューレ」を開店。接客業を行うにあたり、挨拶や身だしなみなどのレクチャーからスタートしたという。「発達障害の人に対するレクチャーはスタッフもみな初心者に近く、手探り状態で行いました」と濱野さん。それでも、それぞれの個性や才能を見つけるのは楽しいとも。「発達障害の人は自分の興味のあることにはすごい知識を蓄え、才能を発揮します。適材適所で活かすことが大切です」(濱野さん)
こうした就労支援を行う中で、「ただ給料を貰えばいいというのではなく、働くことの喜びや満足感もないとだめということに気づいた」という濱野さんは、社会課題と就業支援をかけ合わせた仕事を考案。大きな社会問題のひとつであるフードロスを解決するために自然派グラノーラ専門バルクショップ&カフェ「グラニー」を立ち上げた。
まずは地元の農家から廃棄する野菜や果物、穀物を収集。自社工場を設立してオーガニックのグラノーラへと加工する。スタッフの一人であるフレンチのシェフの指導のもと、季節感あふれるグラノーラバーも作っている。もちろん加工スタッフも、店舗で販売するスタッフもすべて障害者だ。「女性の中には、かわいい制服を着て都心で働くことに喜びを感じている人もいます。あきらめていたことやできないと思っていたことができる、その嬉しさはきっと計り知れないと思います」(濱野さん)
日本福祉協議機構では、さらに社会問題解決と就業支援の一環として、今年の秋にはジビエレストラン「ゾイ」をオープンする予定だ。「獣害駆除された鹿やイノシシは7〜8割がそのまま捨てられてしまう。フードロスをなくし、大切な命をありがたく美味しくいただくために作ろうと思いました」と濱野さん。食材は猟師から買い取るだけではなく、スタッフも猟銃免許を取得し、解体も自分たちで行う。障害者スタッフはレストランでサービスや調理を行う。「これまでのジビエ料理からは想像もつかない料理を提供する予定です」と濱野さんは笑顔で話す。
他にも、昨年からは足助町で原木シイタケ栽培を展開。シイタケを取った原木は、「アペロ・ヒューレ」で販売するクワガタのエサにするなど、素材の循環も行っている。
また引きこもりや不登校の子供をeスポーツで支援する「edges」の運営も今年で14期目だ。「ここに来たらゲームを通じてコミュニケーションを図ることができます。引きこもりの子は決してコミュニケーションが苦手なのではなく、本人が望む環境にいないからコミュニケーションが取れなくなるのです」と濱野さん。
「病院で自閉症や発達障害の診断を受けてしまうと、社会生活が送りづらくなる。そうなる前に、受け入れができる場所をもっと増やしていきたいと思います。今後も障害者と関わる中で、いろいろな問題が見えてくるでしょう。それを一つひとつ改善していきたい。健常者、障害者という意識をなくしてもっとお互いに生活の中で関わっていける仕組みづくりに貢献したいと考えています」(濱野さん)