未来の生活に最良で最強な「くらしの基本と普遍」を共創し「感じのいい暮らしと社会」の実現を目指す無印良品。その取り組みは従来の衣類・生活雑貨・食品といった商品の開発や販売だけにとどまらず、近年では、プラスチックボトル、余った食品、古着の回収を行ったり、人々の暮らしに関わる相談所を設け、さまざまなサービスや、フードロスなどの問題に対応するよう自社製品だけでない「食と農」に関わる物販を実施したりと、数多くのサステナブルな活動を行っている。
そんな中、注目を浴びているのが、「地方創生」を目指したいくつかの取り組みで、特に2012年より実施しているUR都市機構と共同の取り組み「団地リノベーションプロジェクト」は社会全体に「感じのいい暮らし」を提案する大掛かりなものだ。本記事ではこの「団地リノベーションプロジェクト」の中身と想いについて、無印良品の執行役員・長田英知さんに解説してもらいながら紹介する。
サステナブル、SDGsともリンクする無印良品の「地方創生」への取り組み
「団地リノベーションプロジェクト」の具体的な紹介の前に、昨今の無印良品が考える「サステナブル」「SDGs」とは何かについて長田さんに聞いた。
「1980年の創業以来、従来の消費社会に対して、さまざまな提案をしてきた無印良品ですが、今は第2創業としての時期を迎えており、『人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会』をテーマにし『感じ良い暮らしと社会』の実現を掲げています。
大きくはこれに伴う取り組みが、昨今のSDGsやサステナブルな取り組みにリンクすると言えますが、中でも今回ご紹介させていただきたいのが『地域創生』に伴う『団地リノベーションプロジェクト』です。
『無印良品と地域との関わり』は今に始まったことではありませんが、今後はこれまで出店してこなかった地域にも無印良品の店舗を増やしていき、物販だけでなく各地域のコミュニティセンターと位置付け、その地域の方々と一緒になり、新しい街づくりを行っていきたいと思っています。
この活動を通し、各地域に根ざしたライフスタイルを作っていきたいと考えていますが、それに連動する取り組みが『団地リノベーションプロジェクト』です」(長田さん)
団地の取り壊しはせず、改善・改修が必要な部分のみのリノベーション
高度経済成長期に全国で数多く建設され、全国に約5000程あるといわれている住宅団地。
建設から相当な年月が経過している団地は、住民の高齢化や住居の老朽化、さらにバリアフリーの遅れなどの問題が顕在化している。しかし、土地に余裕があった時代に建てられた団地には、贅沢な敷地要件で建設されていたり、緑が多く風通しが良いなど、集合住宅として優良で多くの可能性を秘めている側面もある。
このような優れた部分をうまく活用し、新しい世代も快適に過ごすことができる住宅の実現を目指すのが「団地リノベーションプロジェクト」だ。大掛かりな予算がかかる団地の取り壊しは原則的に行わず、快適に暮らすために改善・改修が必要な部分のみのリノベーションを前提としているという。
「無印良品には収納家具やインテリア商品があり、こういったものももちろん使います。しかし、単に既存の商品を空間にあてはめるのではなく、団地のリノベーションを通して新たな価値を見出し、新しい空間の提案をしていきたいと考えています。
たとえば、団地ならではの規格化されたモジュールに合わせた収納や家具をUR都市機構と共同で開発したり、実際に生活する人にこういった資材を活用していただくことで、ご自身が全体のインテリアコーディネートができるというサービスもご提供しています」(長田さん)
「団地リノベーションプロジェクト」の「生かす」「変える」「自由にできる」
その具体的なコンセプトは主に「生かす」「変える」「自由にできる」の3つによって成り立っている。まず「生かす」はすべてを壊すのではなく、使えるものは残し、変えるべきところは変えることを基本としている。古いものを見直し上手に生かすことは、「今を大切にして未来へつなげていくことと同じ」と捉え、合わせてコストも抑えられるという合理性がある。
また、「変える」は団地ならではの魅力を引き立てるため無印良品の商品、無印良品とUR都市機構との共同開発した家具などを活用しリニューアルさせることで、新しい暮らしを提案している。
そして、「自由にできる」は借りた人が自分の好みやライフスタイルに沿ってアレンジできるものを指し、多様化する暮らしにできるだけ対応できるよう、生活者にとっての「自由」も提案している。
全国各地の団地で1000戸以上の入居を実現。今後はさらに拡大させていきたい
無印良品が実施する「団地リノベーションプロジェクト」の実施例の写真を見るだけでもワクワクしてくるが、2012年のスタート以来、すでに全国各地で1000戸以上に入居しているという。その入居者の7割以上が40代以下で、前述の「団地における住民の高齢化」に対しても貢献していると言って良いだろう。SDGsになぞらえれば「ターゲット11の『住み続けられるまちづくりを』にそのままリンクするように思える、この「団地リノベーションプロジェクト」だが、長田さんによれば今後はさらに拡大させていく予定だという。
「これまでは団地の居住スペースのリノベーションを行うことが多かったのですが、今後は例えば団地の共用部、隣接する広場、団地敷地内にあるショッピングセンターなどもトータルでデザインしていきたいと考えており、実際に千葉の花見川団地や横浜の野庭団地などで実施が決まっています。
『団地リノベーション』の事例を増やし、少しずつ拡大させていくことで、単に団地に新しい価値を見出すだけでなく、地域社会全体の創生につなげていきたいと考えています」(長田さん)
文:松田義人