“未来に残したい”ツナ缶。消費者と水産業・農業をつなぐ、サステナブルな取り組みとは?

2023年1月31日

肥料・飼料の製造を行う会社が、サステナビリティに配慮したプレミアムなツナ缶「とろつな」「しろつな」を開発。このうち「とろつな」が、2022年11月に行われた「未来の食卓アワード2022」で72の缶詰の中から日本缶詰大賞優秀賞に選ばれた。

開発を手掛けたのは、静岡県の伊豆川飼料株式会社。1949年の創業以来、魚かす(加工後に残った骨などの非可食部位)から栄養豊富な肥料および飼料を作り、静岡の農業や畜産業を支えてきた。そんな会社がなぜツナ缶を作り、未来の食卓に残したい缶詰として評価されるにいたったのか。ここでは、開発に込めた思いや実現までの苦労について、伊豆川飼料株式会社の取締役・伊豆川剛史さんに話を聞いた。

“未来に残したい缶詰”として、日本缶詰大賞優秀賞に選ばれた伊豆川飼料株式会社のプレミアムツナ缶「とろつな」

ツナ缶誕生の背景にある、水産業と農業、消費者をつなぐ“静岡のおいしい循環”とは?

伊豆川飼料株式会社が製造する魚かすを主原料とした肥料は、作物の品質を向上させる効果があるアミノ酸を多く含むという。お茶やみかんといった静岡が誇る名産品の味と品質を陰ながら支え、自社の肥料を通じて水産業と農業の橋渡し役を担ってきた同社には、「“静岡のおいしい循環”を守っている」という自負があるのだそう。

「静岡で水揚げされた魚を加工後、残った魚の頭や骨などの魚かすを肥料にして、作物を育てる。水産業と農業は実は深くつながっていて、私たちはこれを“静岡のおいしい循環”と呼んでいます」(伊豆川さん)

ところが近年、“静岡のおいしい循環”が危機を迎えているのだという。マグロのツナ缶生産量全国1位を誇る静岡県だが、近年は魚価の高騰による製造コスト増とデフレによる製品の価格競争が背景にあり、海外で解体したマグロの輸入割合が増加。これは、ツナ缶が出来上がるまでに発生する魚かすの量、すなわち肥料の生産量が減少することを意味し、同社が大切にしてきた“静岡のおいしい循環”が途絶えてしまう可能性が出てくるのだ。

「とろつな」「しろつな」の開発によって、持続可能性が生まれた“静岡のおいしい循環”

「そこで私たちが考えたのが、地元メーカーの協力を受けてツナ缶を開発することでした。スーパーに行けば100円でツナ缶が買えてしまう時代ですが、商品にストーリー性を持たせ、すべて静岡産、手作業での製造にこだわり、味わいをとことん追求することで、『とろつな』『しろつな』は完成しました。厳しい基準で仕入れたマグロを静岡の工場で加工し、ツナ缶製造時に発生する魚かすを使って、私たちが良質な肥料を製造する。その肥料で育てた野菜や果物、お茶が生活者に届く。ツナ缶をきっかけに、“静岡のおいしい循環”に持続可能性が生まれたんです」と伊豆川さんは話す。

1949年の創業以来、肥料および飼料の製造・販売を通じて、静岡の食を支えてきた伊豆川飼料株式会社

持続可能性と品質を両立させた「とろつな」。“未来に残したい缶詰”として高評価

「とろつな」は、キハダマグロの「トロ」の部分のみを使用したブロックタイプの贅沢なツナ缶。一方の「しろつな」は、ビンチョウマグロを使用した、きれいな白い身が特徴のフレークタイプのツナ缶だ。2016年初頭に構想が立ち上がり、同年夏に販売を開始。しかし、商品化にいたるまでは決して順調ではなかったという。

キハダマグロを使用した「とろつな」

「背景には、静岡の缶詰メーカーさんが販売価格を上げられずに苦しんでいる姿を見て、助けになれたらという思いもあったのですが、当初はメーカーさんとの間で温度差がありましたね。保守的な姿勢だったので、説得を行うことが最初の関門でした。また、当社は飼料・肥料の製造会社なので、食品を開発したことも、販売をしたこともありません。そんな中でスタートした取り組みだったため、販売ルートを開拓するまでが苦労の連続でした。2016年夏に販売を始めたものの、実際に商品が売れたのは2017年に入ってから。ひたすら手探りの状態で、知人や友人などを頼って少しずつ解決していきました」と伊豆川さんは当時を振り返る。

そして2022年11月、伊豆川さんたちの取り組みが実を結び、「未来の食卓アワード」で全国29社72商品の中から、「とろつな」が日本缶詰大賞優秀賞を受賞したのだ。「未来の食卓アワード」とは、「原材料へのこだわり」「優れた加工技術」「持続的成長(サステナビリティ)への取り組み」などの視点から優れた商品を選出するというもので、一般社団法人未来の食卓が主催。2022年が初開催となり、「日本の食卓に残したい缶詰」をテーマに、グランプリ、準グランプリ、優秀賞が選出された。

ビンチョウマグロを使用した「しろつな」

        
「とろつな」の評価ポイントは、持続可能性の高い取り組みだという点。選考委員からは、「本来食品の缶詰を作るメーカーではない飼料会社が、地元のマグロを使い缶詰事業に挑戦されたとのこと。製造工程で出た骨やアラ、頭などは飼料や肥料にして静岡のみかんやお茶づくりに循環利用されている、この循環を知ってもらうために、非常にこだわった缶詰を作られているというユニークな取り組みです。缶詰自体も丁寧に手詰めされ、見た目も美しく、しかもおいしい。そういった点を評価しました」というコメントが寄せられた。

「“静岡のおいしい循環”を多くの方に知ってもらいたい、その輪の中に入ってほしい、そんな思いから始めた取り組みでしたが、未来に残したい商品として、サステナブルな面と品質面の双方から評価いただけたことを光栄に感じます。おかげさまで皆さんにご好評をいただき、少しずつその輪が広がっているような実感がありますね」(伊豆川さん)

ひとつのツナ缶が持続可能な好循環を促す。サステナビリティを意識するきっかけに

静岡の水産業・農業にとどまらず、“静岡のおいしい循環”は全国各地の消費者をも巻き込み、大きな輪となりつつある。

「この商品を手に取っていただいた皆さんには、すでに持続可能な静岡を作っていくための輪の中に入っていただいていると考えています。ひとつの缶詰をきっかけとして、全国のご家庭の食卓に“静岡のおいしい循環”が広がっていき、水産業や農業ともつながっていることを知ってもらえたらうれしいですね。ゆくゆくは、当社の飼料や肥料を使ってくれている生産者さんの育てたお茶やみかん、果物や野菜などの生産物を、ツナ缶と一緒に手に取っていただけるような仕組みを作っていきたいと思っています」と今後の展望を語ってくれた。

食べ比べが楽しめるギフトセットも人気

「とろつな」「しろつな」は1缶あたりの希望小売価格が420円と、気軽に購入できる値段とは言い難いかもしれない。しかし、ツナ缶を購入することで多方面にポジティブな影響が波及していくのは、喜ばしいことではないだろうか。

サステナブルな取り組みだけでなく、「香りや味はまぐろの中トロそのもので、大きな身と柔らかな食感が忘れられません」「笑っちゃうくらいおいしいです」とプレミアムな味わいでも熱い支持を集める同商品は、静岡県内の土産物店などのほか、公式オンラインショップで購入が可能。日常の食卓に取り入れやすい身近な商品をきっかけに、口にする物の背景などについて思いを巡らせてみるのもおもしろいはずだ。

この記事のひときわ #やくにたつ
・新しいアイデアで可能性を切り拓く
・広い視点でものづくりを行う
・商品の付加価値を高めるためのストーリーを意識する

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