不要コスメをクレヨンにアップサイクル。百貨店・高島屋が目指す「売りっぱなし」からの脱却

2023年3月15日

百貨店・高島屋が日本橋店など7店舗で、不要なメイク用品やコスメの空容器を回収してクレヨンや物流資材などにリサイクルする「コスメ回収キャンペーン」を2023年3月21日(火・祝)まで実施中。循環型社会の実現を目指す同社のプロジェクトの一環で、今後も定期的に行うという。MD本部バイヤーの橋祐介さんと岡田ひかりさんに、プロジェクト実施の背景や、今後目指していく百貨店のあり方について話を聞いた。

大量生産・消費の課題解決に取り組む責任がある

――高島屋のサステナブルな取り組み「Depart de Loop(デパート デ ループ)」について教えてください。
【橋】「Depart de Loop」は、売りっぱなしからの脱却を目指し、販売・回収・再生をセットで推進する活動として2021年にスタートした取り組みです。デニムやカシミヤなどの衣料品を回収して、リサイクルパートナーと協業でアップサイクルし、新たな製品として販売しています。

デニム回収キャンペーンの様子。2022年、高島屋日本橋店で撮影【画像提供=高島屋】

――なぜ、そうした取り組みが始まったのでしょうか?
【橋】これまで百貨店は大量に生産されたものを大量に仕入れ、大量に販売してきました。それが結果的に今の大量廃棄につながっていると考えており、我々はこの問題について完全に当事者であると思っています。自社として、何とかしなければならないと考えるなか、2020年にポリエステルのケミカルリサイクルを行う株式会社JEPLAN(ジェプラン、旧日本環境設計株式会社)と資本提携を結んだことを皮切りに「Depart de Loop」がスタート。まずは売り上げの主軸である衣料品から取り掛かることにしました。現在は約10社ほどのリサイクルパートナーと関わりがあります。

――これまでのプロジェクトの反響は?
【橋】「Depart de Loop」は、お客様から預かったものが、どういう企業を通じて何になるのか、しっかりお伝えしてから回収しています。なので「百貨店だから信頼できる」「捨てるのはためらっていたけど、百貨店を通じてリサイクルされるなら喜んで」というお声をいただくことがあります。次の回収時期を告知すると、店舗に問い合わせが入ることもあり、少しずつではありますが、認知が広がっているのではないでしょうか。

衣料品回収キャンペーンの様子。2022年、高島屋日本橋店で撮影【画像提供=高島屋】

時間をかけて問題に踏み込む

――今回のコスメ回収キャンペーン実施のきっかけは?
【橋】百貨店でできる循環を考えたときに、衣料品に限らず、もっと循環できる領域があると考えていました。メイク用品はどのようにリサイクルするのだろうと漠然と思っていたとき、今回ご協力いただく「COSME no IPPO(コスメノイッポ)」を展示会で知り、残ったメイク用品をアップサイクルしてクレヨンにするという取り組みに非常に感銘を受けたことがきっかけです。

メイク用品をアップサイクルしたクレヨン。「COSME no IPPO」は美容業界のゴミゼロを目指す活動として2021年秋にスタートした【画像提供=高島屋】

――コスメ回収キャンペーンについて教えてください。
【岡田】役目を終えたメイク用品と使い終わったコスメのプラスチックの空容器の両方を回収しています。化粧品業界の回収キャンペーンは他社やメーカーでも行われていますが、両方を回収しているところは実は珍しいのではないかと思います。

――メイク用品と空容器、両方を回収している理由は?
【橋】新しいプロジェクトを立ち上げるにあたり、メイク用品だけではなく、廃棄プラスチックの問題にまで踏み込みたいという思いがありました。両方を回収するために、リサイクルパートナーである「ECOMMIT(エコミット)」で容器とメイク用品を分けてもらい、容器はリサイクル企業に、クレヨンとして使える部分は「COSME no IPPO」に送っていただいています。こうした取り組みは「ECOMMIT」でも初めてのことだったので、実現まで半年から1年ほどかかりました。

回収対象は役目を終えたメイク用品とコスメの空容器(プラスチック素材の容器のみ)。メイク用品は口紅、パウダータイプのアイシャドウ・アイブロウ・おしろい・ファンデーション、ペンシルタイプのアイライナー、パウダータイプと練りタイプのチーク・ハイライトが対象【画像提供=高島屋】

――アップサイクルされたクレヨンは、その後どうなるのですか?
【岡田】今年の夏以降に子ども服関連の売り場で販売したり、クレヨンを活用したイベントを実施したいと考えております。また、年4回の回収を目標として、今後よりお客様の認知度を上げられるように、伝え方の工夫をしていきたいです。

開催中のコスメ回収キャンペーンの様子。高島屋日本橋店で撮影【画像提供=高島屋】

「百貨店としてお客様にしっかり伝えたい」

――キャンペーン実施にあたり苦労したことは?
【橋】コスメに限ったことではありませんが、リサイクルパートナーと我々は、これまであまり接点がありませんでした。だからこそ学びが多い分、お互いの認識を合わせるために苦労する場面がありました。我々はリサイクルに関する知識が十分に蓄積できておらず、力不足を感じることがあったり、社内の確認などをしていると、先方の要望にスピード感を持って応えることができなかったり。一方で、百貨店としてお客様にしっかり伝えたいという思いがあるので、リサイクルに関してわかりやすいご説明のお願いをする必要もありました。

――社内ではどのように進めましたか?
【橋】法務的な確認など押さえるべきところは押さえながら、一方で「まずはできることをやってみませんか?」という、両軸で進めることが大切だと思っています。まずはやってみて、お客様の反応を見ながら適宜修正をかけていくという方法で、スタートを切りました。

多くの人を巻き込んで仲間を増やしていく

――今後の展望をお聞かせください。
【橋】百貨店だからこそ、衣食住あらゆる分野で循環ができると思っています。わざわざ「プロジェクトです」と打ち出さなくても、回収・再生・販売を当たり前のようにできる状態にして、お客様に「不要なものを循環させるなら高島屋」と思ってもらえる、プラットフォームのような存在になりたいと思っています。

【橋】社内としては、多くの人を巻き込み、仲間を増やしていくことが非常に重要です。お客様と同じで、従業員の関心もさまざま。コスメ回収がきっかけで「Depart de Loop」を知った社員がいるかもしれないし、15店舗で実施したカシミヤ回収のときに知った社員もいるかもしれない。関わる人を増やしていき、担当者だけではなく従業員一人ひとりが自分ごとと認識して、楽しみながら取り組めて、いろいろなところからアイデアを出せるような集団になることが目指すべきところです。

カシミヤ回収キャンペーンの様子。2022年、高島屋日本橋店で撮影【画像提供=高島屋】

――最後に、読者にメッセージをお願いします。
【岡田】使っていないメイク用品がご自宅に眠っている方もいらっしゃると思うので、1点でも、お買い物がてら預けに立ち寄っていただけましたらうれしいです。回収したメイク用品や空容器の総重量は「Depart de Loop」のサイトで今後ご報告させていただきます。メイク用品がクレヨンになった姿もぜひ見にいらしてください。
※実施店舗は日本橋店、新宿店、横浜店、玉川店、大宮店、柏店、京都店

この記事のひときわ #やくにたつ
・異分野の人との仕事は学びと発見がある
・「できることをやってみる」の姿勢が物事を動かす
・多くの人を巻き込むことで多様なアイデアが生まれる

取材・文=伊藤めぐみ

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