「ダイドードリンコ」の“ユニーク”な自動販売機(以下、自販機)を見たことがあるだろうか。金額の部分に表示される4桁の数字がぞろ目になると、もう1本無料でもらえる自販機は知っている人が多いかもしれない。それ以外にも、傘の無償貸し出しサービスがついていたり、自販機から方言つきの自動音声が流れたりと、バラエティーに富んでいる。
そんな異彩を放つ自販機だが、これらは一体どのようなコンセプトで導入されているのだろうか。また、画期的な発想を生み出すカギやサービスのラインナップも気になるところ。
そこで今回は、ダイドーグループホールディングス株式会社(以下、ダイドー)コーポレートコミュニケーション部 グループ広報・コミュニケーション推進グループの森下尚昭さんに、ユニークな自販機の誕生秘話とアイデアの源泉、そして自販機を通じてもたらされる、ダイドーのホスピタリティを聞いた。
テーマは自動販売機で“新たな付加価値”を提供
ダイドーといえば「缶コーヒー」のイメージを持つ人がいるかもしれない。しかし近年では、カフェやコンビニコーヒーなどが増加したことによって、若年層を中心に自販機離れが進行しているという。そこで、2000年ごろから「飲料購入以外の付加価値を提供しよう」と取り組みを開始したのが、ユニークな自販機の原点だ。
「まず着手したのは『おしゃべり自販機』で、一般に広く認知されている“関西弁”を搭載した自販機を設置しました。その後、弊社含めダイドーグループ全体で支援している『日本の祭り』で関わらせていただいた行政の方から『地域活性化のために自分たちの方言の自販機も作ってくれない?』とお声をいただく機会が多くなり、今では18種類の方言を採用しています。最初はエンターテインメントを重視していたのですが、次第に“地域活性化”の意義が強くなっていきましたね」
また、方言だけでなく会社内に設置するのであれば、社長の言葉を収録したり、学校であれば校歌を取り入れたりと多種多様だ。音声に関しては、方言はプロの声優を起用するが、会社や学校内といった限定的な設置の場合は、携帯で録った音声をそのまま搭載するため、そこまでコストがかからないとのこと。「引退する電車の思い出を残すため、発車音を搭載した自販機もありますよ」と森下さん。
傘を“無償”で貸し出し!?バラエティー豊かなサービスの数々
おしゃべり自販機からスタートしたサービスだが、現在ではさまざまなコンセプトの自販機が展開されている。なかでも「レンタルアンブレラ」は、傘を“無償”で貸し出すという斬新な内容だ。自販機にドリンクを補充していたダイドーのルート担当者が、突然降り出した雨に困っていた人たちを見かけて思いついたのがきっかけだそう。
「2016年時点ではありますが、返却率は約70%です。ただ、無償での貸し出しですので、繁華街など観光客が多いところは、再び訪れる機会が少ないのでご返却いただけないことが多い傾向にあります。それでは本末転倒ですので、学路や商店街、オフィス街と同じ人がほぼ毎日通る場所に設置しております。物のシェアがしづらくなったコロナ以降は利用が減少してまいりましたので、今後、withコロナ時代に対応できる形での見直しを検討していきます」
一方、猫を飼っている営業担当者の「手軽にペット用のおやつを購入できたらおもしろいんじゃないか?」という、何気ないひと言から始まったプロジェクトが「ネコちゃん自動販売機」だ。そこから実現に向けて動き出し、飲料とともにネコ用おやつを販売するネコちゃん自動販売機の稼働が決定。そして猫の日である2023年2月22日、大阪府熊取町の保護猫カフェ・ネコリパブリック大阪熊取町店に、記念すべき第1号が設置された。
このようなユニークな自販機を配置する際には、展開コストや販売本数の見立て、オペレーションの整備など飲料を適切に販売する自動販売機として成立するかを前提に考えるそうだ。「昨今では、社会的な受け取られ方の多様性を踏まえ、特にコンプライアンスや倫理観のチェックは慎重に行っていますね」と森下さんは語る。こうしたチャレンジを後押しする社風が、画期的かつ社会貢献となる企画を生み出しているのである。
全社員がアイデアパーソン!年に一度「DyDo チャレンジアワード」を開催
そんなダイドーでは、2016年から年に一度全社員からアイデアを募る「DyDo チャレンジアワード」を開催している。その名の通り、社員のチャレンジを推進するイベントで、自販機に関することはもちろん、福利厚生に関する内容まで多岐にわたる。
「2015年に弊社誕生40周年を記念した『みんなの4◎(ヨンマル)チャレンジ』を開催しまして、全社員にアイデアを募集して導入にいたったアイデアのひとつが、先ほどお伝えしたレンタルアンブレラでした。以降チャレンジを讃える機会として設けたのが、DyDo チャレンジアワードです。年間で100件程度のアイデアが集まり、数人でひとつの企画を考えたり、ひとりで複数考案する社員がいたりとさまざまですね」
そのほか、営業担当者と取引先の何気ない会話から草案が生まれたり、社内の企画検討チームが、これまでのデータをもとに提案したりなど、会社をあげて日々アンテナを張り巡らせている。森下さんは「これまでのアイデアの数は、正直、数えきれないほどあります」と話す。この膨大な企画の数々は巨大なデータベースとなっており、年々取引先の要望に応えられる幅が広がっているそうだ。
今後の目標は、地域活性化・利便性向上・環境への配慮
現在ダイドーの自販機は、主に郊外を中心に設置されており、消費者からはその土地のシンボルのように扱われているようで、地元に帰省した人たちの“憩いの場”になっていることも少ないそうだ。このようにかねてより地域活性化を積極的に行っているダイドーだが、今後はどういった取り組みを予定しているのか。
「より身近な存在に感じていただけるように、そしてこれまで支えてくださった取引先や消費者さまへの恩返しの意味も込めて、引き続き地域活性化に取り組んでいきます。また、QRコードを活用した新サービス『Drink Pay』や、クレジットカードのひも付けによって顔パスで購入可能な『顔認証自販機』を導入したりと、さらなる利便性の向上を目指します。環境面においてはSDGsの達成を目指すため、自販機の年間消費電力量に相当する再エネ指定の非化石証書を、年に一度度ダイドーが代理購入してCO₂の排出量を実質ゼロにすることで、カーボンニュートラルに取り組む『LOVE the EARTHベンダー』を展開し、環境に対する一層の配慮を心がけていく所存です。2023年7月現在、取得済みの装置は約1500台ですので、より広く普及するように努めてまいります」
自販機を通じて、新たな価値を提供し続けるダイドー。取引先のニーズに対する誠心誠意な対応もさることながら、実際に利用する消費者に寄り添ったホスピタリティの精神が、今日も支持される理由であろう。そして私自身もいち消費者として、今後の展開が楽しみでならない。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・飽和状態にある自動販売機市場に新たな付加価値をつける
・アイデアの源泉は、全社員がチャレンジできる風通しの良い社風
・企画の規模に関係なく、取引先の課題を解決するホスピタリティ精神
取材・文=西脇章太(にげば企画)