自分たちで栽培する酒米を使った酒造り、酒粕を生かしたビール造りを行いながら、持続可能な循環型農業を実践する明野高校の取り組みとは!?

2023年11月2日

開校144年の歴史を誇る三重県立明野高等学校。農業、家庭、福祉の学科があり、生徒たちは専門の知識や技能を高めるべく日々学びを深めている。その中のひとつ、生産科学科の生徒が地域や企業とともに取り組む日本酒や地ビールの商品開発について、話を伺った。

地元企業との取り組みでサステナブルなビールを開発


生産科学科は作物部門、畜産、草花、野菜、果樹の5部門に分かれ、1〜2年生は各部門をローテーションしながら学び、2年後半から各部門を専攻。専門性を深めている。作物部門では2019年から「弓形穂(ゆみなりほ)」と呼ばれる酒米を栽培。そのきっかけは、2018年にGLOBALG.A.P.(グローバルギャップ:国際農場基準、以下GGAP)を取得したことによる。「当時の3年生を三重県のGGAP推進大会に連れて行った際に、三重県知事の前でGGAPを取りますと宣言したことが始まりです。ちょうど、学校としても何か特色や強みを打ち出していきたいと考えていたところなので、取得に向けて盛り上がっていこうということになったのです」と、担当教員の西恭平さんは話す。

GGAPの取得には、持続可能な農業を行うための環境保全型農業実践のためのチェック項目が具体的に定められ、その数は約220項目にものぼる。生徒たちも項目のひとつであるリスク管理を実践。「自分たちの農場を知ることが大切」と農場や資材庫の巡回を行い、リスク管理調査を行っている。

「資材庫の段差に対するリスク管理や、農場の肥料が生態系に与える影響などを調べて、何が起こっても対応できるように対策を考えます」と3年生の仲世古柊風さん。また同じく3年生の大井戸陸斗さんも、「GGAPの実地審査のときは、急に質問されて答えられなかったこともありました」と苦労を振り返る。

【画像】リスク管理とその対応を考える生徒たち


「弓形穂」は山田錦を元とする「伊勢錦」を種として三重大学が開発した酒米のこと。生産科学科ではこの酒米を栽培し、地元の河武醸造とコラボして純米吟醸酒「明野さくもつAS」を製造。2020年から販売を行っている。実際に酒米栽培を行うのは3年生で、毎年全員が初心者だ。「コンバインの操作などが難しかった」と大井戸さん。仲世古さんも同じく「農機具に慣れるのが大変でした」と話す。また弓型穂は、ほかの品種に比べると病気に弱いため消毒管理にも細心を払い、稲穂の背が高いため刈り取りにも苦労をしたという。夏休みを返上しての作業もあったが「米作りにいちから携われたことがうれしい」と2人は笑顔を見せる。

慣れない田植え機を使って作業

手植えも実践

稲刈り機を使って作業を行う生徒たち


「明野さくもつAS」はすっきりとして飲みやすい吟醸酒で、発売以来人気を呼び、売り上げも伸びている。2023年10月には東京・日本橋の「三重テラス」でも試飲イベントを行い、大盛況だった。「生徒たちの取り組みの発表も行いました。多くの人に認知してもらえてよかったと思います」と西さんはいう。

「みえセレクション」に認定された「明野さくもつAS」


この「弓形穂」の籾殻は学校で飼育するブランド豚「伊勢あかりのぽーく」の排泄物とともに堆肥にされ、その堆肥でまた「弓形穂」を栽培している。また「弓形穂」のくず米と「明野さくもつ」から排出される酒粕、地元企業からの食品廃棄物を「伊勢あかりぽーく」の飼料にしている。こうした持続可能な循環型農業に加えて、このたび伊勢角屋麦酒とともにプロジェクトを組み、「明野さくもつ」の酒米を原材料の一部に使ったビール「SUSTAINA BEER 純環」を開発。2023年8月に完成した。

生徒たちはまずビール工場を訪れて、製造工程を見学してビール造りに対する理解を深め、酵母についてフィールドワーク形式で学習。酵母の特徴についても学んだ。

また実際にモルトの粉砕作業や、モルト・ホップ・酒粕の投入、樽詰や瓶詰め作業や商品デザインの考案も体験。貴重な経験を経て、自分たちの循環型農業をさらに充実させるとともにSDGsの重要性についてもより深く学ぶことができたのだ。

「これからも地域や企業とつながりながら商品開発を行い、さらに循環型農業を広げていきたいですね」と西さん。明野高校のサステナブルな実践は今後も続いていく。

飼料となるモルト粕をかき出している様子

瓶詰め作業も真剣に取り組む

ラベルの選定にも関わった

県への商品紹介も生徒たちが行った

一般のお客さんへ向けて商品のプレゼンテーションも自分たちで行う

右から西さん、仲世古さん、大井戸さん

三重県立明野高等学校


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