日本の歴史を語るうえで外すことができない神社。忙しい日常をひととき離れ、神社を参拝すると心が洗われるようだ。そんな神社を基軸に巫女舞などの巫女体験を行い、日本人の心や文化の継承活動を行う「日本文化伝承協会」の宮澤伸幸さんに、活動を通してめざしていることについて話を聞いた。
神社の祭祀の際に巫女が神の前で舞う「巫女舞」。その起源は、日本書紀や古事記にある神話だと伝えられる。「天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸にお隠れになり、世界から日の光がなくなってしまったときに天鈿女命(あめのうずめのみこと)が岩戸の前で舞を行ったことが起源といわれています。万物の神に奉納する厳かな巫女舞を体験することで、日本の豊かな文化や精神性を知ってほしいと思います」と宮澤さんはいう。
「自分の周りの人々やもののすべてに“ありがとうございます”と感謝する心や、お辞儀の作法など、巫女舞を通して日本人ならではの細やかな心遣いに理解を深めてもらいたいと考えています」
巫女体験に参加する年代は10代から80代まで幅広いと宮澤さんは話す。「一度でいいから巫女さんの衣装を着てみたかった、という人や巫女舞を踊ってみたいと思っていた、という人などさまざまです。国籍も、台湾や中国、ベトナム、韓国など多くの国々から参加していただいています。外国の方々は、最初は母国との宗教の違いに驚かれますが、巫女舞を通して昔から日本人が大切にしてきた心、風習や営みを知り、感動されますね」。
また言葉の壁を乗り越えるために、紙芝居形式で説明を行うこともあるという。「言葉より、所作、作法に秘めた心で日本の神道を感じてもらうことを大切にしています」。
2024年6月には、ニューヨークの日本総領事館で行われたシンポジウムで、巫女舞を奉納した。文化交流基金関係者の一人が「アニメでしか見たことない巫女舞を、リアルに見て感じることができてよかったと好評でした」と宮澤さん。またアメリカの4つの大学から「ぜひ来て舞ってほしい」とオファーを受けたとも。「日本の古き良き伝統文化を広めることに貢献できてうれしく思います」と宮澤さんは話す。
また巫女舞は自身の我をとり、手足だけではなくお腹の丹田で舞うので心が和み気が整い、体にもいい影響を及ぼすともいう。「全身運動なので、体幹と背筋、下半身が鍛えられます。心と体のストレッチになって、気持ちが和みますね」。さらにこうした巫女舞を健康づくりに取り入れてほしいと、朝7時半から巫女舞ができるスタジオも開設予定だ。「出勤前に心も体も整えられるような場所にしたいと思います」。
日本文化伝承協会では巫女体験だけではなく、巫女検定の準備も行っている。検定は、初級は筆記、中級は所作作法の実技、上級は巫女舞実技、師範免許は教育指導の内容で行われる。試験に合格すれば巫女として神社で奉仕するときに有利となる。「巫女検定は巫女資格と間違えられやすいですが、受けることで、より神社仏閣に対して深い見識を持ち、日本人が昔から大切にしてきた心を所作や作法から体感し、日本の文化に対してさらに深く興味が湧きます。また受験や就職活動にもプラスになり、旅行先でも日本の深い部分が見られ、より日本を楽しむことができるようになると思います。巫女検定はすべての日本人の方々におすすめします。」と宮澤さんは話す。
日本には約8万社の神社があるといわれるが、人口減少や過疎化でその社数は年々減少している。日本文化伝承協会では、これらの神社の再生の担い手として、巫女の啓蒙・育成だけではなく祭事のプロデュースや授与品のリブランディングなども手がける。現在は長野県茅野市にある車山神社と単車神社の運営をサポートしている。「2000メートル級の山の上にある神社を参拝して天を仰ぎ、自分が住む土地をお守りする氏神(うじがみ)神社と、生まれた土地をお守りする産土(うぶすな)神社を参拝して足元を見つめることで、自分自身を振り返り、すべてのことに感謝する時間を持ってほしい。そんな願いを込めた“天空参り”も広めていきたいと思っています」と話す宮澤さん。
今後は、さらに神社再生プロジェクトを活性化させて神社への参拝者数を促進するとともに、華道や茶道、伝統工芸など日本古来の文化とも深く連携していきたいと思いを込める。「巫女舞や巫女検定で得たことは、華道や茶道といった“道”がつくものに対するより深い学びにつながる。この活動を通して一人でも多くの人に、すばらしい日本の文化や伝統、精神を広めていきたいです。巫女だからこそ見えてくるニッポンがあると思いますね」。