少子高齢化社会によって右肩上がりに医療費が増え続ける昨今、独自の食糧確保構想や食育プロジェクトを打ち出し、市民の健康づくりに尽力する大阪府泉大津市。その一環として妊産婦に玄米の栄養を残した金芽米(きんめまい)を提供する「マタニティ応援プロジェクト」を展開している。実際に妊産婦や新生児によい影響を与えたという全国初の検証結果も得られ、ますます注目を集めている。

2023年から「マタニティ応援プロジェクト」を開始!その理由は?
市独自の「健康づくり推進条例」を制定し、「食」、特に米から健康にアプローチする取り組みを行う泉大津市。同市は市内の農地が全体の約2.4%と少なく米の自給が難しいため、市民の健康増進と将来的な食糧危機への備えとして2023年から独自のサプライチェーンを構築。全国各地の生産地の自治体と農業連携を推進し、生産者から直接有機米や特別栽培米を買い付けている。「我々都市部の人間は農村部がないと生きていけません。また学校給食などの大きな出口がある我々都市部が農村部を支えないといけない」と話す南出賢一市長。現在は北海道旭川市や長野県南箕輪村など、全国8自治体と農業連携協定を締結。非常事態下における米の備蓄、学校給食や就学前の子どもたちに給食で提供する取り組みを図ってきている。

南出市長は「農家の方からは所得が上がった、出口があるから安心して米を作ることができるという声をいただいています」と話す。また、あと5年は持たないと言われていた米の生産地からも「これからも生産を頑張ることができます」という声が届いたという。

これらの各連携自治体から購入した米は精米業者によって、玄米の栄養成分と旨味を残した「金芽米」に加工される。金芽米とは、精米機メーカーである「東洋ライス株式会社」が独自の技術で精米した無洗米のことで、通常の精米では削られてしまう亜糊粉層を残したものだ。泉大津市ではその金芽米を市内の小・中学校で毎日提供している。また、発酵食品やオーガニック食材、旬の食材などを使用した季節感のある給食「ときめき給食」を、毎月2回提供。子どもたちの健康を考えてなるべくトランス脂肪酸を避け、自然塩を使って調理するなどの工夫も行っている。体によい素材で作る給食は、子どもたちや保護者から「おいしい」「体調がよくなった」「便秘が治った」と評判を呼んでいる。


こうした取り組みを経て、泉大津市は東洋ライス株式会社と連携し、2023年から「マタニティ応援プロジェクト」を開始。妊娠届出の翌月から出産予定月まで、妊婦とその家族に毎月10キロの金芽米をプレゼントしている。参加した妊婦からは「安心して食べることができ、体の調子もよくなった」「妊娠中の健康促進を支援してもらえる貴重なプロジェクト」との声が続々と届いている。

また、2025年1月16日には、泉大津市と公益財団法人医食同源生薬研究財団が共同で、同プロジェクトに参加した妊婦と新生児を対象とした健康への影響結果をまとめた検証レポートを発表した。具体的には101人の妊産婦を対象に妊娠中と出産後の2回のアンケート調査を実施。その妊産婦から生まれた赤ちゃんのうち、83人の出生時体重と1カ月児健診のデータを検証。その結果、便秘や胃の張りなどの妊娠中の体調不良が軽減し、また生まれた赤ちゃんの体重が過去4年間(2019〜2022年)の各年度平均と比較して増加したというデータが得られた。
「低出生体重児は医療的ケアが必要になる場合や発育遅延のリスク、また成人後も影響を与える場合がある。妊産婦が金芽米を食べることでいい傾向が出てきていると考えられます」と話すのは医食同源生薬研究財団の米井嘉一代表理事。南出市長も「今回のような健康効果の検証は、実際にご妊娠されている妊婦さんにご協力いただいた世界的にも珍しいものです。これからもプロジェクトを続け、中長期的にデータを取っていきたい」と意欲的に語る。

泉大津市は今後もマタニティ応援プロジェクトや市民の食育活動を展開。エビデンスを伴うことでより広く市の事業展開を図り、市民の健康改善や栄養状態の向上に貢献していく予定だ。2020年からは、大阪府や全国の健康寿命が下がる中で、泉大津市の健康寿命は男女ともに延びている。またマタニティ応援プロジェクトは和歌山県上富田町などほかの自治体でも実装が始まっている。今回の検証結果の発表により、全国への横展開も期待される。「日本全体が健康になる、そのオセロの一枚をひっくり返したつもりです」と南出市長。今後も泉大津市の取り組みに注目したい。
