芦ノ牧温泉駅の桜のような、力強いおばあちゃんが描きたかった
駅に手作りの「ぬた餅」(ずんだ餅とも呼ばれる)を作って持ってきたおばあちゃん。猫缶をもらい、食いしん坊のさくらもご機嫌だ。笑顔を絶やさないおばあちゃんだがさくらにあげた猫缶は、本当は亡くなった飼い猫のために購入していたものだという。
ゆきよみさんは今回漫画で、「どんなに悲しいことが起きても力強く生きる人」を描きたかったそう。
「今回は『歴史』がテーマです。芦ノ牧温泉駅は間もなく開業100年ですが、その長い歴史と共に生きてきた地元会津の人々を、同時に描けたらいいなと思いました。漫画には、大切な人々に先立たれたおばあちゃんが登場します。辛いことや苦しいことがあっても、心折れずに平気で生きる。そんな芦ノ牧温泉駅の桜のような力強いおばあちゃんを描きたくて、このお話を考えました」
またお気に入りのシーンを聞くと、「手のシミをさくらに舐められたおばあちゃんが笑っているところ」だと教えてくれた。
「シミをペロリとするさくらとそれを見て笑うおばあちゃんのコマは、食いしん坊の可愛いさくらとおばあちゃんのどっしりとした優しさ、2人の『らしさ』が出ていて気に入っています。どんなことも笑い飛ばせるこんなおばあちゃん、素敵ですよね。また、芦ノ牧温泉駅にはペットロスのお客様も多く訪れると伺っていたので、このおばあちゃんもさくらや駅員さんたちに癒やされているんだろうなと思っています」
お茶目でパワフルなおばあちゃんがすごく魅力的に感じたが、どなたかモデルはいるのだろうか。
「モデルというほどではないのですが、私の祖母を参考にしています。祖母の手はシワシワで、大きなシミがいくつもありました。芦ノ牧温泉駅の太い桜の幹を見ていたら、ふと、祖母のシワシワの手を思い出したんです。祖母は最後までとても元気で、祖父が亡くなってからもなお、口癖のように『ばばは死ぬことを忘れた、わっはっは』と大笑いしていました」
駅と同じくもうすぐ100歳になるおばあちゃん。しかしその人生を考えれば考えるほど、漫画にするのは苦労したと振り返る。
「長生きするほど『大切な人々が先に旅立つ』という場面を何度も経験しなくてはならないと思うのですが、それでもなお人間は長く生きたいと思うのか?をずっと考えていました。正直、なかなか答えが出なくて…。自分が100歳近くになったらどう思うんだろう?って、自問自答を繰り返しました。ですがこれも、祖母の口癖『ばばは死ぬことを忘れた』がヒントになりました。どんな状況であっても、人間は生きることを諦めたくないものだろうなと。そしてきっと、前を向くことができるはず。そう思えた時にやっと、最後のセリフ『長生きくらべじゃな 桜の木さん』にたどり着きました」