冬が過酷だからこそ、春の喜びは格別
南国で生まれ育った著者にとって「雪が当たり前に降り積もる生活」が、どんなものなのか正直想像がつかない。そこで雪国生まれ雪国育ちのゆきよみさんに、まずは冬の苦労について聞いてみた。
「冬は過酷の2文字につきますね(笑)。生きるってこんなに大変なのか!って何回も思うくらいです(笑)。なかでも、除雪作業が一番きついですね。降り始めは、積もった雪も柔らかいため、除雪も比較的苦労はしないのですが、日を追うごとに積もった雪が圧雪になり、除雪すらできなくなってきます。こうなると、普通の生活を維持することがとても大変です。道幅は半分になり、一方通行のように…。そして車は雪にはまって動けなくなってしまうんです」
雪にはまって動けないなんて絶望してしまいそうな状況だが、一体どうやって脱出するのだろう?
「車がはまって途方に暮れていると、どこからともなく人が集まってきて、知らない人たちが力を合わせて車を押すんです。そして無事に脱出。すると、何もなかったかのように、人々はいなくなって…。お礼もできないのですが、お互いさま。とっても寒いけど、こんなときは心が温まりますね」
なにかと苦労が多い冬。だからこそ、春を迎える喜びは格別だそう。
「やさしいお日様に照らされて、溶け始めたツララの雫。その下に春の花の芽を見つけたときが、一年で一番好きな瞬間です」
実は以前、鉄道会社で働いていた経験もあるゆきよみさん。冬に鉄道を走らせる苦労についても教えてくれた。
「冬の大変さを毎年味わっているのですが、特にインフラの維持は大変です。私は以前、鉄道会社で車両整備の仕事をしていたため、冬に鉄道を走らせる大変さは身に染みています。車両整備で言えば、走行中の車両のドアが凍り付いて開かなくなったり、車両基地での点検では、雪だるまのように車両が雪を抱き込んだり、さらに部品周りは凍り付いたり…。点検をするために、まずはそれらを溶かすことから始まるのですが、冬なのに溶けた雪や氷でずぶ濡れになるんです。
『にゃん旅鉄道』でも、雪の中を進んでくる列車が映し出されていますが、冬に鉄道を走らせ続けるという、当たり前の日常の裏側には、たくさんの人の努力があって。そんなことと、駅の皆さまから伺った2人の方の実話をベースに、会津の冬を漫画にできたらいいなと思い描きました」
実話をもとに漫画を描くうえで、気を付けている点や苦労はあるのだろうか。
「実話が土台にあるのですが、あくまでも猫たちが主役になるようにお話を組み立てるようにしています。今回は秋よりも、また少し成長したさくらの姿がテーマです。たぶん彼女は、自分の成長に気がついていないと思うのですが…。でもきっと、毎回読んでくださっている読者の皆さまや、さくらを傍で見ている駅員さんたちは、さくらの成長を日々感じているのではないかな?と思います」
今回、特にお気に入りのコマを聞いてみた。
「最後の、おばあちゃんとさくらが一緒にベンチに座っているコマです。当然寒いんでしょうが、なんだか心温まる場面になったかなと思います」
駅を訪れるお客さんと触れ合うなかで、自分でも気づかない内に少しずつ成長していくさくら。彼女の今後と会津鉄道・芦ノ牧温泉駅の美しい風景を、これからも楽しみにしてほしい。
取材・文=石川知京