カレーを全国に広めた「オリエンタルカレー」の斬新すぎる宣伝活動とは?「オリエンタル坊や」の誕生秘話も

2023年1月18日

カレーといえばインド発祥の料理だが、日本のカレールウはどのようにして誕生したのかをご存知だろうか。日本初の本格的なルウタイプのインスタントカレーが発売されたのは、戦後まもなくのこと。愛知県に本社を置く、株式会社オリエンタルが発売した「オリエンタル即席カレー」がその始まりだ。

物資も少なく、カレーがまだ一般市民に浸透していない時代に、株式会社オリエンタルは独自の方法で日本全国にカレーを広めていった。そして昔から変わらぬパッケージデザインはグッズ展開されるほどの根強い人気を得ており、昨今のレトロブームも相まって注目を集めているのだとか。

一体どのような宣伝方法でカレーを全国へ普及させたのだろうか。また、懐かしさすら感じるマスコットキャラクター「オリエンタル坊や」とは一体何者なのか?今回は、株式会社オリエンタル(以下、オリエンタル)の創業者・星野益一郎さんの孫で管理本部に勤める星野恭徳さんに、即席カレーの誕生秘話と変遷を聞いた。

昔から変わらないレトロなデザインの「オリエンタル即席カレー」


偶然の出会いから誕生!日本初の「即席カレー」開発秘話

オリエンタルの即席カレーが発売されたのは、1945年の戦後まもない頃。食べるものも満足に得られなかった時代で、カレーはまだ一般市民には手が出せない高級品だった。その頃、オリエンタルの創業者・星野益一郎さんは、名古屋駅西口の問屋街で小麦粉や砂糖を扱う輸入食品商社を営んでいたという。

オリエンタルの創業者・星野益一郎さん


益一郎さんが新たな事業を模索していたとき、近所に住む女性が戦争で夫を亡くして困っているところに遭遇。問屋業を営んでいた夫が残した大量のスパイスを抱え、途方に暮れていたそうだ。

「祖父は西洋文化に興味を持つハイカラな人物でした。カレーにも興味があったようで、自分の持っている小麦粉と女性が持っていたスパイスでカレールウを作ろうと考えたのが始まりです。しかし、物資も満足に集まらなかった戦後すぐでしたので、商品開発にはかなり苦労したみたいですね」と星野さん。

小麦粉をあめ色になるまで炒めて、そこにスパイスや調味料を入れて味を整えるが、なかなか思ったような味にならなかったそうだ。その後、試行錯誤を繰り返し、試作品を近所の人に食べてもらいながらやっとの思いで商品化。日本初のインスタントカレーの誕生だ。

発売当時の即席カレーを作る様子


社員が歌や芸を披露⁉︎斬新すぎる宣伝活動

世間的にはにはまだまだ“高嶺の花”だったカレーだが、オリエンタルは前代未聞の方法で宣伝を行ったのだとか。それは、オリエンタルの社員が音楽とともに芸を披露し、風船やスプーンを配り、試食してもらうというもの。宣伝カーは、後ろで社員がパフォーマンスできるようにトラックを改装した。

「まだ車すら珍しかった時代です。娯楽も少なかったため、多くの人が集まって楽しんでくれました。当時を知っている人に話を聞くと、催しを見てカレーが食べられたことが強烈に印象に残っているようです。ちなみに『カレーうどん』もこのときに生まれたらしく、全国を回っていた芸人さん(当時の社員)たちのお昼ご飯は、うどんやそばが定番だったそうです。しかし毎日食べて飽きてきたのか、うどんに即席カレーを入れて食べ、それを知った周辺のうどん店も後に続いていったみたいです。それがカレーうどんとして広められました」

4トントラックを改装した宣伝カー。芸人たちはみんなオリエンタルの社員だった


あんぱん1個が5円の時代に即席カレーは5皿分で35円と、決して安くはない金額だったが、パフォーマンスとともに販売するとあっという間に売れたという。画期的だったこの販促活動は自社の周囲から始まり、仙台から沖縄まで全国に範囲を広げていった。

パフォーマンスの様子。ぱっと見ではカレーの販促活動と思えない

子供たちに風船を配っている様子。1回のショーで1000個ほど売れたそう


宣伝活動は1970年頃まで続き、その後ラジオやテレビでのCM展開を実施したことで、オリエンタルは全国的な知名度を獲得した。「実は弊社の『CMソング』も日本初と言われています」と星野さん。なんとインスタントカレーだけではなく、CMソングの元祖でもあったのだ。

「オリエンタル坊や」のモデルは現会長!

独自の方法で宣伝し、大成功となったオリエンタルの即席カレーだが、商品のパッケージやデザインにも興味深い話がいくつかある。まずはマスコットキャラクターの「オリエンタル坊や」だ。一度見たら忘れられないインパクトのある見た目で、現在もこのキャラクターのグッズは人気だというが、どんな経緯で誕生したのだろうか。

「即席カレーの発売当初はシンプルな星のマークを使っていましたが、模造品が増えてきたため、何かキャラクターを作ろうと考えました。そこで創業者である祖父が、当時2歳の父(現会長)の顔とインド人の顔を融合させて自らデッサンしたイラストが、オリエンタル坊やの原型です。デザインは当時からほとんど変わってないですね。なお、キャラクターデザインの黒い肌の色や大きなピアスは、カレー発祥の地であるインドの人たちからイメージしています」

発売当時の即席カレー。左上の星マークは星野さんの名字が由来だという

現在の「オリエンタル坊や」

1950年頃の看板


ちなみに、現在発売されている「マースカレー」と並び、オリエンタルの看板商品である「マースハヤシ」の商品パッケージを飾っている女の子も印象的だが、実は有名製パン企業のパッケージになっている子と姉妹なのだとか。「発売した1960年頃はみんな西洋への憧れがあった」との理由から、外国人の子供を採用したという。

「オリエンタルマースハヤシ」のパッケージ。有名製パン企業のモデルの女の子と姉妹だったとは驚きだ


もうすぐ創業80周年!“マイルドでやさしい味”をより多くの人に

時代は流れ、すっかり固形ルウが主流となったが、オリエンタルは即席カレーを発売した頃と同じ粉末タイプにこだわり続けている。若い人であれば、固形ルウのとろっとしたカレーになじみのある人が多いかもしれないが、オリエンタルの粉末カレールウには他社にない強みがある。

「弊社は健康面を考え、昔から変わらぬ製法で“マイルドでやさしい味”の商品を作り続けています。そして固形タイプのように油が多くないので、皿にベタベタ残らず胃もたれしませんし、カレーライス以外の料理にもご活用いただけますね。ちなみに私のおすすめは『ジャアとやってチャッとやるカレーもやし炒め』です!そのほか公式サイトにいろいろなレシピを掲載しているので、ぜひご覧ください」

「ジャアとやってチャッとやるカレーもやし炒め」の調理時間はたったの8分!


来る2025年に創業80周年を迎えるオリエンタル。元祖インスタントカレーの味とパッケージデザインを愛する人は地元・名古屋を中心に多く、現在も幅広い年齢層に親しまれているが、特に40代以上の男性から人気なのだとか。

「子供の頃に食べた味を思い出して、『懐かしさを感じる』という理由でご購入くださる方が多いです。弊社のカレーは他社さんの商品と比べて刺激が少ないので、お子様から主婦層、年配の方まで幅広い年代の方たちに楽しんでいただけると思います。『子供が最初に食べたカレーはオリエンタルのカレーです!』といったお声をいただくと、とてもうれしいですね。これまで私たちは健康に気をつかった商品を展開してきましたので、今までご愛顧いただいているお客様を大切にしながら、今後も多くの人にご購入いただけるよう努めてまいります」

グッズの1つ「オリエンタル坊やのスプーン」。グッズが当たるキャンペーンも展開中だ


カレーを家庭科理として日本全国に普及させた、オリエンタルの即席カレー。カレーライスだけでなく、チャーハンや焼きそば、野菜炒めと、さまざまなレシピに活用できる汎用性の高さを生かした自分だけの新たな料理を楽しんでみて。

取材・文=中谷秋絵(にげば企画)