名古屋を訪れたことがある人なら、一度は「ナナちゃん」を見たことがあるはずだ。ナナちゃんは名鉄百貨店の広告塔を務める身長6メートル10センチの巨大マネキンで、その姿は名鉄百貨店のみならず、“名古屋の顔”と言っても過言ではないだろう。
そんなナナちゃんの注目すべき点は、多種多様な衣装デザイン。浴衣に水着、サンタクロースといった季節感のある衣装はもちろん、自治体、企業、タレント、アニメとコラボレーションした衣装も数多く展開し、テレビや雑誌などメディアにも多数出演している。
そして2023年、ナナちゃんは50歳に。今回はそれを記念し、株式会社名鉄百貨店本店 営業企画室の杉明香里さんに、ナナちゃんの誕生秘話や衣装デザインの変遷について話を聞いた。
ナナちゃんのルーツは東京で開催されたマネキン展示会
1972年4月28日、名鉄百貨店セブン館がオープン。1周年を迎えた翌年に、社内では「何かシンボルになるものはないか」とさまざまな案を出し合っていた。そして当時の担当者が、百貨店に適したマスコットを探していた際、東京の晴海ふ頭で行われたマネキンの展示会でインパクトのある大きな人形を見つけたそうだ。
「その人形は、もともとスイス・シュレッピーという会社のもので、当時ライセンス契約を結んでいた東京のマネキン会社・ロア社の製品でした。そこから型をとり、ナナちゃんが誕生。実はナナちゃんはこのとき、長野県伊那市で製造されています。名前は一般公募により、“セブン”をもじった親しみやすい名前として『ナナちゃん』が選ばれました」
こうして名鉄百貨店前にナナちゃんが登場。以降、地元の人々に愛される名古屋駅前のシンボルとして、待ち合わせ場所などに利用されるようになった。さらに2011年4月1日には、すべてのサイズがナナちゃんの6分の1である、妹の「ミナちゃん」も加わり、現在は姉妹でPR活動に勤しんでいる。
衣装は累計630着以上!体を張ったPRの結果、思わぬものも…
ナナちゃんといえば、ユニークな衣装を着ている姿を思い浮かべる人が多いかもしれない。例年、シーズンごとに合ったコンセプトをはじめ、数多くの衣装が制作されている印象があるが、実際のところはどうなのだろうか。
「2012年に企業様や自治体様への貸し出しを開始してからは、衣装のバリエーションが大幅に増加しました。2012年当時から『ナナちゃん担当』と呼ばれる衣装のデザインを担当する者がいて、すべて新作というわけではないですが、だいたい週1回のペースで衣装を変更しています。衣装の制作期間はおおよそ2週間~1カ月かかるため先を見越して作っていて、2023年9月現在、累計制作数は630着以上となっています」
また、セールの時期や年末年始など、名鉄百貨店のプロモーションがあった際の衣装は、前述のナナちゃん担当者が手掛けている。一方、貸し出している期間中は、借りた側が衣装のコンセプトやデザインを考案しているそうだ。
「ちなみに、これまでナナちゃんが体を張ってPRした結果、全国的に話題となった斬新なデザインがあります。例えば、あまりの安さにびっくりして顎が地下通路まで突き抜けたものや、鼻から毎時10分間隔でスモークを噴射したりなど、とてもユニークなんですよ(笑)」
「ナナちゃんバースデー」企画で長年の課題が解決!
ナナちゃんは1973年の誕生以降、数々の衣装とその存在感で多くの人たちの興味・関心を引いてきた。名鉄百貨店の広告塔として長年大役を務めてきたわけだが、同時に大きな課題もあったという。
「ナナちゃんの体を張ったPRのおかげで大変話題となり、彼女を見に多くの方が名古屋にいらっしゃいました。しかし、一方でなかなか百貨店内までご入店いただくことができないという課題もありました。そこで、ナナちゃんの誕生日を記念した『ナナちゃんバースデー』企画が立ち上がりました。ナナちゃんだけでなく店内でもさまざまな販促企画を実施した結果、『ナナちゃんバースデー』の期間中、入店客数が前年比130%、ナナちゃんグッズ関連の売上は前年比250%と、大きく伸ばすことができました」
今では地元の人をはじめ、市内外の多くの人たちがナナちゃん関連のイベントを楽しみにしているそうで、彼女と同じポーズをして写真撮影をする人や、足元をくぐってみる人など、彼女の周りは常に多くの人々でにぎわっている。杉さんは「たくさんの方に愛されてきたナナちゃんをもっと愛していただけるよう、引き続き楽しんでいただける企画を考えていきます」と意気込んだ。
半世紀もの間、名古屋駅を行き交う人々を見守り続けてきたナナちゃん。これまでさまざまな衣装で地元民や観光客をもてなしてきた彼女だが、今後はどんなテーマで私たちを楽しませてくれるのだろうか。名古屋旅行の際は、ぜひ一度立ち寄ってみては?
取材・文=西脇章太(にげば企画)