高知県の山奥からリモートで入社式に参加
ーー それで、社員さんと一緒にキャンプへ行かれたんですか?
【村瀬 亮】いえ、いきなり社員に「キャンプへ行って仕事しよう!」と誘ったら、「社長がまた変なことを始めたぞ」と、引かれてしまうかと思いまして(笑)。まずは自分1人で体験しようと、高知県の山奥に1週間こもって仕事をしてみました。
それが2015年4月の第1週目です。なぜその時期だったかというと、来客の予定がない日を選ぶと、そこしか調整できなかったから。でも、自分の会社の入社式があって…。新入社員に直接会えないのは申し訳ないけれど、そこはどうにか許してもらおうと(笑)。出席できない代わりに、オンラインで訓示を行ないました。
ーー その時、社員さんたちの反応はいかがでしたか?
【村瀬 亮】新入社員からすると、社長がいきなりスクリーンに現れて、「山奥にいます」って言われたら驚きますよね(笑)。今でこそリモート会議も日常化しましたが、当時はそうでもなかったですし。
でも、このような一見非効率に見える働き方にチャレンジすることは、会社の考え方や仕事内容と、大きく外れたことではなかったんです。そもそも我々は、ITシステムの導入を支援しているわけですが、その中でも“心が通うIT企業である"こと、そして“人として健全である”ということを重要視してきました。
つまり、単に効率化だけにフォーカスした仕事の進め方ではなく、例えば仕事がよりクリエイティブになったりワクワクしたりと、我々のサービスを導入してよかったと思ってもらえるよう、顧客満足度に重きを置いていたんです。
そういった会社が掲げている理念や、前述した働き方改革への考えを、キャンプをしながらリモートで入社式に参加することで新入社員に伝えられたのではないかと思います。
ーー アウトドアで仕事をすることは、会社の理念に通じることだったんですね。
【村瀬 亮】そうですね。それでも、社員をキャンプに連れて行くのには慎重になりましたよ。難易度を上げすぎてしまえば、嫌がられてしまうかもしれないと心配でしたし。なので、まずは近所の公園でデイキャンプからスタートして、少しずつ社員に受け入れてもらいました。
それから、社内のミーティングや研修にもアウトドアを活用し、オフィスの什器にもスノーピーク製品を取り入れていきました。
アウトドアショップでの出合いから、約1年で会社設立
ーー 数あるアウトドアブランドの中で、なぜスノーピークだったんですか?
【村瀬 亮】「キャンプをやってみよう」と思い立ったとき、まずはアウトドア用品一式を揃えるために大型量販店へ足を運びました。初心者でしたし、いろいろなメーカーの商品を手に取ったんですが、スノーピークのコーナーを見た瞬間に「カッコいい!」と、衝撃を受けたんです。あの出合いは今でも鮮明に蘇りますね。
それより以前からスノーピークというメーカーを知ってはいましたが、実際に店頭で見て、そのデザイン性の高さに改めて気付きました。そして触ってみたら、その機能性にも惚れて。アウトドア用品を一式スノーピークで揃えることに決めました。
その後、「どうしてこんなに素晴らしい製品を作れるんだろう」と、スノーピークという会社そのものが気になってきて。調べたら、その経営理念やストーリー、考え方に共感して、スノーピーク山井 太社長(当時、現スノーピーク会長、以下同)の著書にも感銘を受けました。
ーー 具体的には、どういった点に感銘を受けられたのでしょうか?
【村瀬 亮】スノーピークは「人間性の回復」をミッションに掲げています。現代では、文明が進化して生活が便利になる一方で、人が自然から離れてしまっている。そこで、キャンプを通して自然に触れることで、人間らしい姿を取り戻すことを目指しています。
自分もIT企業の未来を考えたときに、自然との共生や、人間らしい健全な幸せが非常に重要だということを感じていました。スノーピークの考え方と、私がIT企業で実現したいと思っていることが合致していたんです。
ーー そこから、どのようにして会社設立に至ったのですか?
【村瀬 亮】最初はスノーピークを愛用している、いち法人ユーザーとして、社員と分かち合っている価値を直接伝えたいという思いで、山井社長にお会いしたんです。そうしたら、とても共感してくださって。あとから知ったことですが、ちょうどその頃、スノーピークでも実験的にキャンピングオフィスを試みていたそうなんです。
そういった背景もあり、2回目にお会いしたときには「共同出資で会社を作ろう」と誘っていただきました。
ーー 2015年にソロキャンプをして、2016年には会社設立。すごいスピード感ですね。
【村瀬 亮】それは本当に…山井社長の決断力のおかげですね。正直、初めは面食らいましたよ(笑)。会社を作ろうと思って会いに行ったわけではないですし、我々は畑違いのIT企業ですから。一瞬怯んで、持ち帰らせてもらったんですが、「これを受けなかったらどうするんだ!」という気持ちになって、すぐに「やりましょう」とお返事しました。