AI時代、人間の仕事にはよりクリエイティビティが求められる
ーー 「自然と、仕事が、うまくいく。」というコーポレートメッセージに込められた思いは?
【村瀬亮】これまで言われていた“生産性”の概念が、今まさに変わりつつあります。業務を効率化して1秒でも早く…という作業的な仕事は、これからAIやロボットが取って代わると言われています。
その一方で、人間がやる仕事は、何かを考えたり作ったりと、よりクリエイティブなものになっていきます。そうすると、部屋にずっと閉じこもっているよりは外に出て環境を変えた方が、新しいアイデアが生まれやすいでしょう。
生命体である人間は、五感の刺激が健全であった方がポジティブな思考になりやすいんです。そういった点で自然は壮大なパワーを持っている。
だから、「自然に携われば、自然と仕事がうまくいく」というメッセージを出しています。
ーー 自然の中にいると、創造性が高まるんですね。
【村瀬 亮】そうです。よく誤解されてしまうのですが、いわゆる作業的な仕事のときにまで外に出よう、と言っているわけではないんですよ。室内にこもって集中するような業務も必要ですから。すべてアウトドアで仕事をしよう、というわけではありません。1日のうちに1時間、1カ月のうちに1日でも、自然の中で過ごす時間があった方がいいよ、とお伝えしています。
ーー アウトドア研修を体験したお客さんからは、どのような声がありましたか?
【村瀬 亮】今まで、参加者の事後アンケートに「アウトドアでの研修が嫌だった」と答えた人は、ほとんどいませんでした。「今までと違う環境で会話ができてよかった」とか、「いつもと違う発想が生まれた」という意見が多くて。やはり自然の力はすごいですよね。
それから、「自分の会社で、この研修が実施されたこと自体に可能性を感じた」という声もありました。このような取り組みは、恐らく高度成長期では見向きもされなかったことです。当時は生産性や効率性重視で、数字がすべてでしたから。だからこそ日本がここまで成長してきたのですが、一方で歪みが生まれて、失ってきたものもあります。働き方改革が叫ばれている今だからこそ、反応してもらえるようになったのだと思います。
ーー キャンプが嫌いな人から、ネガティブな反応はないんですか?
【村瀬 亮】暑かった、寒かったという気温の話や、虫が嫌いとかは、もちろんありますよ。だから今は、ホテルと併用したパッケージプランも作っています。キャンプが好きな人はキャンプ場でテント泊、室内がいいという人は提携施設でアウトドア研修と室内泊というように、希望に合わせてご提案することができます。
アウトドアを取り入れるなら、まずは手軽なチェアから
ーー 個人が仕事道具を持っていきなりキャンプに行くのは、少々ハードルが高いです。手軽に仕事にアウトドアを取り入れられそうなアイデアがあれば教えてください。
【村瀬 亮】まずはアウトドアチェアを1つ買ってみるのはどうでしょう。最近はリモートワークの影響で、高機能なデスクチェアの売り上げが伸びているらしいですね。座った状態をとことん快適にするのもいいですが、私は持ち運びがしやすい“動ける椅子”をおすすめしたいと思います。
それで、家の中で仕事場所を変えてみてもいいし、ベランダに出てみたり、近所の公園に行ったりするのもいい。空間を少し変えるだけでも、かなりリフレッシュできますよ。
あとは、今までの常識や価値観がガラッと変わりつつある時代ですから、発想の転換として、あえて“今までの逆のことをやってみる”というのもおすすめです。例えば家の中で仕事をしているのであれば、外に出てみる。昼間仕事をしていたら、夜にしてみる、とか。視点や行動を変えてみると、発見や気付きがありますよ。
「労働は大変なもの」という価値観からの脱却
ーー コロナ禍での変化はどう感じていますか?
【村瀬 亮】コロナ禍を通して、我々の考え方に共感してくれる人は増えましたね。キャンピングオフィス事業をスタートした当初は、新しいことを進んで取り入れる社風を持った、外資系企業などからのお声掛けが多かったです。でも今は大手企業も含めて、本当にさまざまな企業からお問い合わせをいただきます。
以前から、社会の変化に伴って人間の在り方も変わっていくだろうと予測していましたが、それが後押しされたことを実感しています。おかげさまで、売上も2020年はおよそ130%成長で伸びていますし、今後もまだまだ需要があるだろうと感じています。
ーー 働く環境の改善は、今後もさらに求められてきそうですよね。
【村瀬 亮】そうですね。私たちの提案していることって、見方によっては、緩くて締まりがなくて、曖昧なことなのかもしれません。特に「労働は大変なものだ」という価値観の人たちにとっては、「リラックスして働こう」とか「イキイキ働く」なんて、「何を言ってるんだ」と感じられるかもしれません。
しかし、近年は仕事と幸福度の関係に関する研究も進んでいて、働く幸福度が高い方がパフォーマンスが高いというデータもあります。企業は制度や仕組みを整えるだけではなく、イキイキと働ける環境を提供していくことが、これからより重要になってきます。日本の働き方改革は、そこから始まるのではないでしょうか。
ーー ありがとうございました。
取材・文=前田智恵美