純粋に楽しむ花火大会、小幡知明が語る魅力とこだわり
――花火大会、花火を楽しむうえでのポイントを教えてください。
【小幡知明】もうそれは、何も考えずに純粋に見てもらうことですね。ネームバリューや話題性といった知識はあまりいらなくて、純粋に楽しめた花火大会がいい花火大会なんじゃないかと思います。その場の環境をそのまんま味わってもらえればいいんです。会場のアナウンスでより見やすいように工夫しているところなど、それぞれの魅力もありますし。
――誰と行くかといったことも込みですし、花火を見て何を感じるかも人それぞれですしね。
【小幡知明】うちが大切にしているのは、花火の最初から最後までどうやって楽しんでもらうかというところです。ほかの花火師さんと一緒に連携して見せる花火大会はまだ少なく、コロナ禍で何カ所か試みていますが、最初から最後までの流れを魅せられるのが、うちらしい花火大会になると考えています。
――「モビリティリゾートもてぎ花火の祭典」は、小幡さんにとってどういう場になっていますか?
【小幡知明】花火を上げる環境として、本当に最高です。大きな玉も上げられますし、広大なフィールドがあるので、そこをどう使うかが大事です。現状で使いきれているかどうかは別として、もう少し何かできるんじゃないかと思いながら、徐々に打ち上げられる範囲を広げています。もてぎさんでの経験は本当に大きく、開業当初からお世話になっていて、音楽に合わせて花火を上げるなど、多くの試練を乗り越えてきました。我々にとって新たな挑戦をする場でもあり続けています。非常に貴重な存在です。
――あの空間は“The 花火を楽しむための場所”って感じですよね。
【小幡知明】もちろん本来はサーキットですけど、「花火専用スタジアムにすればいいんだよ」って言われたこともあります(笑)。それぐらい環境は最高です。観客にとっても、上がるところも目の前で見えるし、遮るものがない状態で花火を楽しめる場所は日本ではなかなかないと思います。関東圏から車で来れる方には特におすすめですね。
【小幡知明】始めた当初から選曲や斬新な音楽の使い方が印象的でした。メジャーな音楽でやる花火大会は多いですが、もてぎさんは初めて聞くけどすごくいい曲を使ったり、音楽と花火を組み合わせて楽しませることにとにかくこだわっています。そういう“もてぎイズム”を継承しながら、よりよくしていきたいと思っています。音楽担当の方とも意見交換しながら、いろいろな挑戦をしつつ、楽しみながら盛り上げていけたらと思っています。
――菊屋小幡花火店さんの花火が見られる、この夏、注目の花火大会を教えてください。
【小幡知明】「モビリティリゾートもてぎ花火の祭典」はもちろんですが、今年でいうと8月31日(土)に予定している伊勢崎の「3市連携利根川花火大会」が注目ですね。今回は記念の大会ということで、群馬の伊勢崎市と埼玉の深谷市、本庄市の3市合同で行います。これまでは最大5号玉までしか上げていませんでしたが、今回は尺玉までの打ち上げもやります。花火大会の規模が倍増していて、群馬県内では見どころ満載の大会です。ただ、大会当日が秋田の大曲の競技会と同日なので、あんまり大きな声で言えないんですけど(笑)。大曲まで行けなくて、その日花火を楽しみたい方はぜひ伊勢崎の花火大会を楽しみにしていただきたいです。
【小幡知明】それと昨年、「土浦全国花火競技大会」で内閣総理大臣賞を受賞したので、今年は大曲でも獲りたいと考えています。アイデアもかなりいい感じなので、期待してください。
――最後の質問です。今後、菊屋小幡花火店としての目標も含めて、小幡さんの今後の野望を教えてください。
【小幡知明】野望といえば、「日本一の花火屋になりたい」という想いはあります。若いころは口にしていましたが、最近はめっきり言わなくなりました。なぜかというと、この世界って、何をもって日本一なのかが曖昧じゃないですか。でも、日本を代表する花火屋になりたいという想いはこの世界に入ったときから変わっていません。そして、機会があれば海外で展開してみたいという夢もあります。そのためには、まずはこの日本で一番メジャーになることが目標ですね。
【小幡知明】それと花火をより楽しんでもらえる人たちを増やしていきたいんです。コロナ禍を経て、花火が平和や復興のシンボルになってくれたら一番いいなと思っています。花火が上がる世の中って平和だし、そんな世界がいいなと思ってもらえたらうれしいですね。
――世の中の受け止め方としてもシンボルでしたよね。コロナ禍でも少し上がっている花火であったりを、復興や復活へのシンボルとして見る人は多かったと思います。
【小幡知明】そうですね、そう思ってもらえたなら本当によかったです。
――見上げるってそういうことだと思います。見上げることで心が明るくなるというか。
【小幡知明】そうなんですよね。コロナ禍に「CHEER UP!花火」として全国で一斉に打ち上げましたが、「花火って見上げるからいいよね」、そういった声も届きましたし、それが花火の一番強いワードなんですよね。
――見上げると笑顔になるというのはありますよね。それに、偶然見る花火ってまた感動が違いますし、特別な感じがします。
【小幡知明】そうですね。当時、隣町の安中市で10カ所ぐらいに分散して花火を上げたんですけど、自分たちの担当の現場で上がる花火を見ればいいのに、私も遠くの小さい花火を見ていたんです。隣の芝は青く見えるというか、近ければいいってわけじゃないんだなと、あの場所で小さな花火を眺めながら、そう感じました(笑)。
――本当に素晴らしいお話をありがとうございました。めちゃくちゃおもしろかったです。
【小幡知明】8月14日(水)の「モビリティリゾートもてぎ花火の祭典」と8月31日(土)の「3市連携利根川花火大会」で、会場の雰囲気と感動を共有できればと思います。ぜひ楽しみにしていてください。
小幡さんの語る花火への情熱とその裏側にある信念に魅了されたインタビュー。幼いころから花火と共に育ち、日本一の花火屋を目指す彼の姿勢には、純粋で真摯な想いが込められている。
「花火が平和のシンボル、復興のシンボルになってほしい」という小幡さんの言葉には、コロナ禍を乗り越えた経験が滲み出ていた。「モビリティリゾートもてぎ花火の祭典」は、彼にとって新たな挑戦の場であり続け、その最高の環境で花火を打ち上げることが小幡さんにとって大きな意味を持つことも伝わってきた。
「純粋に花火を楽しんでもらいたい」、という想いで手がける花火大会は、見る者にとって特別な体験となるだろう。花火が描く一瞬の美しさ、その瞬間に込められた情熱と背景の努力もあわせ、“花火師”小幡知明の花火は、これからも多くの人に感動を与え続けるに違いない。
取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=阿部昌也