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■「トヨタ博物館」による「SDGs」への取り組み
貧困、紛争、気候変動、感染症など、人類は、これまでになかったような数多くの課題に直面している。このままでは、人類が安定してこの世界で暮らし続けることができなくなるという危機感から、世界中のさまざまな立場の人々が話し合い、課題を整理し、解決方法を考え、2030年までに達成すべき具体的な目標を設定。それが「持続可能な開発目標「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」(Sustainable Development Goals)」だ。
世界的に「SDGs」への関心が高まるなか、各企業でもさまざまな取り組みが行われているが、具体的にはどのようなことが行われているのだろうか?愛知県に本社を置く「トヨタ自動車」が手掛ける「トヨタ博物館」(愛知県長久手市)では、10月17日(日)まで「トヨタ博物館でSDGsを考える」という企画展を開催中だ。そこで今回、「SDGs」に取り組んだ経緯や、具体的な活動内容について取材した。
※感染症対策に注意して取材を行っています。
サステナビリティ(持続可能性)を使命として捉える
――何故いま「SDGs」をテーマに企画展を行うのでしょうか?
【企画担当者】自動車の博物館でなぜ「SDGs」をテーマに企画展を行ったのか、疑問を持つ方もおられると思います。2015年、国連に加盟する193カ国を含めた各国・企業は、2030年までに「SDGs」を達成しようと決意しました。残りの期間はたった9年です。
博物館にとって、何かの物事について過去から将来にわたって持続し可能にする”Sustainability(サステナビリティ)”は、大きなテーマであり使命であると考えています。歴史文化を末長く後世に伝えることを通じて、持続可能な将来を考える“装置”が博物館にあるといえるのかもしれません。
「トヨタ自動車&博物館」ならではの「SDGs」
――企画展でピックアップして紹介する取り組みについて、その概要と注目ポイントを教えてください。
【企画担当者】カーボンニュートラルの代表的車種として「MIRAI」を展示しました。 酸素と水素の化学反応によって電気をつくり、きれいな空気と水だけを排出する究極のエコカーとして紹介しています。そのパネルには、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという「カーボンニュートラル」の実現に向けた鍵となる水素と、その水素で走る仕組みについても説明。マイナスエミッションや災害発生時非常用電源の使用例もあわせて紹介しました。そのことに加え「カーボンニュートラル」についての解説もパネルで紹介しています。
災害に備えるクルマとして、メーカーオプションのアクセサリーコンセントがついた「ヤリス(ハイブリッド)」も展示しています。非常時に“移動する電源”としても活用できる電動車は、「もしもの時の安心」につながります。こうしたコンパクトカーでも、このようなオプションを付けることで、災害時にとって大いに活用することができると知っていただきたいです。
パネルでは、災害発生時から3日間は人命救助が最優先されるため、家庭でまず3日分、自分たちの暮らしを維持する備えが必要となると説明しています。クルマをただ移動するための乗り物と考えずに、いざとなったら「災害の備え」と考えることが今後必要になること。またその実際の操作方法についても紹介しています。
自動車の博物館として、「SDGs」の象徴となるものは何かを考えたところ、「人力車」の存在が浮かびました。日本人が発明したと言われる人力車を選んだ理由は、「SDGs」の課題に当てはめると、約150年前の当時のさまざまな課題を解決していたことが分かったからです。これは「SDGs」の目標1・3・8・9・11・12・13・17に該当します。
動力が人力だから、二酸化炭素を出さないからではないか?と思われる方もいらっしゃいますが、決してそれだけではありません。人力車を引っ張る人を「車夫」と言いますが、始めるにあたってはお金があまりかからず、健康であれば誰でも仕事にできました。これは、「SDGs」目標1の「あらゆる場所であらゆる形態の貧困を終わらせる」に該当します。
また乗り心地の良さを工夫するために、さまざまな改良を重ねて、乗客に安心安全な交通を提供したことは、「SDGs」目標11の「住み続けられるまちづくりを」に当てはまります。そして日本だけではなく、アジアを中心に世界中に輸出され、活躍の場を広げてきました。現実問題、いま人力車の時代には戻れませんが、原点に立ち返って、今一度これからの生き方を見直すヒントを与えてくれるのかもしれません。
「トヨタ博物館」を「SDGs」でより楽しむ
――企画展のおすすめの楽しみ方があれば教えてください。
【企画担当者】現在スタッフによる、「SDGs」展示について分かりやすくポイントを解説するガイドツアーを実施しています。日時は8月31日(火)までの期間中13時30分~14時の時間帯で開始。対象は小学生で、要保護者同伴となります。定員は10名で、参加費は無料。当日申込みの上、先着順にて参加できます。ご参加いただくと「SDGs」についてより理解が深まるかと思いますので、気軽にご活用ください。また、図書室では「SDGs」に関する書籍をこの企画展に合わせて多数取りそろえております。より深く学びたい、知りたい方は足を運んでいただければと思います。
さらに、館内のレストランでは地産地消、カフェではフードロス削減、ショップではリサイクル品の販売など、「SDGs」に絡んだメニューや商品が多数あるので、是非ご利用いただきたいです。
――企画展に関連したグッズの販売について教えてください。
【企画担当者】
当館は、あくまでも「トヨタ自動車」が手がける博物館です。ですので、自動車に関わるグッズを使って、より「SDGs」について興味を持っていただきたいという思いがあります。
クルマを製造する過程で不要になった素材や部材をリサイクル品として使い、各商品に転化させ、当館ショップにて限定販売しています。おかげさまでご好評をいただいており、限定数分すでに完売した商品もございます。せっかく来館していただいた「トヨタ博物館」での良き思い出の品として、さらには来館者自身が商品をご購入いただくことで、少しでも「SDGs」に貢献した証としてもご活用していただければと思います。
まだ未知数の「SDGs」の可能性を探る
――今回の企画展の反響はいかがですか?
【企画担当者】ざっと回遊していくお客様(7割)、熱心に知識を吸収しようとするお客様(3割)に二分されます。後者は、主として学校で勉強している、夏休みに「SDGs」について調べる小学生や、企業の「SDGs」に取り組まれている方にご来館いただいております。
特に小学生は既に学校で話を聞いたり、教科書に出ているのを見たりしているので、多くのお子様が「SDGs」看板を見て「あ、エスディジーズだ」ときちんと言えています。またこの夏休みの冊子で「SDGs」について調べたり、考えを述べたりする部分があるようなので、真剣にノートをとったり、ガイドツアーに参加している姿をよくお見かけします。
企業で取り組まれていて、改めて「SDGs」について勉強に来たという方もいらっしゃいます。
――企画展へは特にどんな方に観てもらいたいですか?
【企画担当者】「『SDGs』ってよく分からない」と思っている人に是非来てもらいたいです。「SDGs」は誰もが関係のあることです。来館いただいた方からは、「SDGs」について分かりやすく説明がされていた、という感想をたくさんいただいています。
私たち担当者も、本企画展を企画するにあたり、改めて多くの本を読み、セミナーに参加するなどし、こういう情報があったらもっと最初から理解がしやすいという事柄を、私たちなりに咀嚼し分かりやすくパネルにしてみました。「SDGs」の初歩、いまさらきけない「SDGs」を分かりやすく解説してあるので、是非この機会に来館していただきたいです。
生涯教育の学びの場として博物館にできること
【企画担当者】最近目にしたり耳にしたりすることの多い「SDGs」について、「トヨタ博物館」としては「SDGs」の全体像を分かりやすく伝えるのが使命だと思っております。今回のこの企画展では「SDGs」とはどういうもので、何が問題となっているのか、それに対してわたしたちが生活の中でできる身近なことは何か、気軽に取り組めるものはどんなことがあるか、ということを伝えていければと思っております。
企業として、技術革新だけではより良い未来に変えることはできません。私たちの一つひとつの選択が、どんな些細なことでも、未来を変えていくのだと信じています。そこで、歴史や現実を知ること、意識して選択すること、行動を変えていくことが必要だと私たちは考えます。この企画展を行うことで、来館者と一緒にこの課題について考えていきたい、そんな思いでこの展示を企画したので、皆さんが何気なく日々を過ごすなかで、このかけがえのない地球全体の将来を守るために、一緒になって考え、行動することから始めて欲しいと切に思います。
取材・撮影/森澤直人(tracks)
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