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貧困、紛争、気候変動、感染症など、人類はこれまでになかったような数多くの課題に直面している。このままでは、人類が安定してこの世界で暮らし続けることができなくなるという危機感から2015年、193の国連加盟国すべてが「誰一人取り残さない -leave no one behind-」をスローガンとし、2030年までに達成すべき具体的な目標を設定。それが持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」だ。
各企業でも環境や教育などに関するさまざまな取り組みがおこなわれており、国内外の数多のリゾート運営で知られる星野リゾートもその一つと言える。しかし、星野リゾートではそれらの活動を「勝手にSDGs」と命名して、あくまでCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)経営を促進するためのフレームワークとして捉えている。
これだけ世の中でSDGsの機運が高まるなか、なぜ星野リゾートはSDGsを前面に打ち出さないのか。そのワケを探るべく、株式会社星野リゾート オペレーションマネジメントグループ マネジャーの福本博隆氏にインタビューを実施。SDGsではなくCSVを重視する理由のほか、環境経営の推進や伝統文化・伝統工芸の継承などの活動に対する思いを聞いた。
「SDGsだから」ではなく、代々の使命を受け継いでいる
—— 星野リゾートでは、環境問題などSDGsに合致する活動を数多くされているにもかかわらず、あくまでCSVを重視されているのはなぜでしょうか?
【福本氏】星野リゾートでは、1915年に自社で使用する電力をまかなうため、木製水車を利用した水力発電を軽井沢で始めました。これが現在のCSV経営につながる最初の取り組みです。それ以降、星野リゾートは環境に関するさまざまな活動を続けてきました。
たとえば、1992年には企業ビジョンを「リゾート運営の達人」と設定し、環境に配慮した運営に力を入れてきました。自分たちの使うエネルギーは、できる限り自らの場所の自然エネルギーでまかなおうという考え方「EIMY(Energy In My Yardの頭文字をとったもの)」を掲げたり、軽井沢事業所ではゼロ・エミッションを2011年から達成し続けていたり…。
そのため、「SDGsよりCSVを」という意識が特別あるわけではなく、星野リゾートの代々の使命を受け継いでいると言った方が近いかもしれません。
——「SDGs」を掲げずに取り組みを続けているメリットがあれば、教えてください。
【福本氏】あえて言うのであれば、CSVはより継続性があることでしょうか。たとえば、たびたび話題となる考え方や活動も、その社会的な注目度が下がると一過性のものになってしまう可能性があります。一方で、CSVは企業の事業や利益と直結しているので、継続性が高いと考えています。
—— CSVを重視したうえで設定している目標はありますか?
【福本氏】客室でのペットボトル入りミネラルウォーター提供の廃止や、使用済み歯ブラシのリサイクルは弊社の全施設で取り組んでいますが、それ以外は共通した施策や目標は設けていません。理由は、その土地ごとの文化や特徴が異なっているから。そのため、各施設ごとに独自の活動内容を考え、実施しているものがほとんどです。