環境問題などに積極的に取り組む星野リゾートが、SDGsを前面に“打ち出さない”ワケ

2021年11月17日

星野リゾートが目指すリゾート運営のかたち

—— これまでの取り組みのなかで、代表的なものや特徴的なものを教えてください。
【福本氏】「星のや竹富島」「西表島ホテル」(共に沖縄県)、温泉旅館ブランド「界」の3つの事例をご紹介します。

まず「星のや竹富島」ですが、そもそも竹富島は住民同士の連携が非常に強く、そこに星野リゾートが入っていくためには、運営が島と共生する必要がありました。その一つの手段として私たちが採ったのが、当時外資系ファンドに買い占められていた土地の買い戻しに協力し、その土地を星野リゾートが借りて運営するという方法です。結果的にこの方法が功を奏し、地域の方々の理解を得ながら運営をおこなうことができています。

琉球赤瓦の家々が並ぶ「星のや竹富島」

2021年2月からは、海水の淡水化による飲料水の自給も始めました。もともと、竹富島は石垣島からの限られた量の送水に頼っているという背景があり、「星のや竹富島」でペットボトルの廃止をする際に「どうやって水量を確保するのか」が問題となりました。そこで、大掛かりな設備投資にはなりますが、飲料水の自給に踏み切りました。緊急時には、島民への供給も可能です。

【写真】「星のや竹富島」の飲料水を作り出す、海水淡水化装置

そのほか、竹富島地域自然資産財団と実施している、島の文化と海を学ぶ環境保全ツアー「まいふなーツアー」など、さまざまな取り組みが生まれています。

——「西表島ホテル」のある西表島は、2021年7月に世界自然遺産に登録されました。ここではどんな取り組みをおこなっているのでしょうか?
【福本氏】西表石垣国立公園に位置する「西表島ホテル」は、日本初の「エコツーリズムリゾート」を目指しています。その背景には、観光客を受け入れつつ、島の自然環境を守っていきたいという思いがあります。世界自然遺産を活用した観光の課題は、世界遺産への登録直後は多くの方にお越しいただける一方で、一時的に環境負荷が増加してしまうことが挙げられます。また、そこでの体験価値を継続的に高めていけないと、最終的には観光客が減少してしまうケースがあるということも同じく課題となっています。

「西表島ホテル」のある西表島は、2021年7月に世界自然遺産に登録された

そこで、「西表島ホテル」では持続可能な観光の仕組みを目指すため、3つの取り組みをおこなっています。まず1つは、「エコロジカルなホテル運営」。2021年6月から歯ブラシやクシ、髭剃りなどの使い捨てアメニティの提供をやめ、ゲストにアメニティ持参を案内しています。さらに、8月からはショップや自販機でのペットボトル飲料の販売も取りやめました。また、地域の方々と連携したビーチクリーン活動などにも取り組んでいます。

ペットボトル飲料の取り扱いをやめ、レンタルボトルを用意

2つ目は「島の魅力と価値を感じるネイチャーツアー」。案内するのは、絶滅危惧種のイリオモテヤマネコなど島の生き物に関する知識が豊富な西表島在住のナチュラリストガイドです。島の魅力と価値について深く知ることで、環境意識を高めてもらいたいと考えています。

西表島の生き物について学べる、ネイチャーツアーを実施している

そして3つ目が「イリオモテヤマネコの保護活動」。イリオモテヤマネコの保護活動として「ロードキル防止」に向けた取り組みをおこなっています。イリオモテヤマネコの捕食シーンを撮影した動画や交通事故件数などの資料をもとに、ゲストに正しい知識を伝えています。

—— 最後に、全国に18カ所を展開している温泉旅館ブランド「界」はいかがでしょうか?
【福本氏】「界」では「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、地域の魅力を再発見できるような取り組みをおこなっています。たとえば、地域文化を無料で楽しめるサービス「ご当地楽(ごとうちがく)」。「界 津軽」(青森県)では津軽三味線の全国チャンピオンとその手ほどきを受けたスタッフによる生演奏をおこなっています。また、伝統工芸品を客室に散りばめるなどして、地域の文化を存分に体験できる客室「ご当地部屋」もあります。

「界 津軽」では、津軽三味線の生演奏が楽しめる

「界 加賀」(石川県)のご当地部屋「加賀伝統工芸の間」には、九谷焼の茶器などが用意されている

どちらの取り組みも、ゲストの皆さまに地域の文化について知っていただくと同時に、弊社が職人さんに仕事を発注することで、文化の継承にも貢献することができると考えています。

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