「らしく、心地よく、着るたび好きになる」をコンセプトに、地元産の素材を中心に使ったブランド「UZUiRO」を展開する株式会社渦japan。代表取締役の青木淳さんに、商品についてのこだわりや地域とのつながりについて聞いた。
もともと映像制作会社で映像コンテンツの音楽演出を手がけていた青木さんが今の会社を営むきっかけとなったのは、奥さんの愛さんと趣味で始めた布の雑貨づくりだ。「着られなくなったTシャツを使って小物を作り、Instagramに投稿していたところ、友人を中心に注文が入るようになって」と青木さん。どうせなら自分たちが知っている生地を使いたいと考え、地元の繊維工場に足を運び、余った生地を買って本格的に作り始めたという。
「もともと西尾市は繊維産業が盛んだった地域。高度経済成長時からバブル以前までは何百軒という繊維工場があったそうです」と話す青木さん。バブルが弾け、高齢化が進み、さらに追い打ちをかけるように昨今のコロナ禍で工場をたたむところが増加。今では数十軒のみだ。青木さんはこれらの工場へ足を運び、生地を買いつけ、製品づくりを行っている。
通常のアパレル製品は、デザイナーがいくつもの見本サンプルから自分のデザインに合った生地を選択するが、青木さんはまず素材ありきでデザインを作る。「もともと三河周辺は寝具の生地生産が盛んだったところで、肌触りがよい多重ガーゼが多く生産されています。こうした生地を、着心地のよい服に仕上げていきます」と青木さん。「車関係の資材用生地を作るところも多く、丈夫な生地はそれを生かしたアイテムにします」。
また、工場で出る規格外の生地も活用するとも。「例えば10メートルおきに小さなキズが入ったり色味にムラがあるような生地でも、デザインを工夫したり自社で染め直して使用します」。
工場へ足を運び、生地を買いつけ、企画デザインから縫製まで行うのは目まぐるしく忙しい。だが、青木さんはその姿勢を貫き通す。「今はメールひとつで生地の発注はできるし、企画もネットで簡単に検索できる。でも、工場に訪れて顔を見ているから、多少の無理は聞いてくれるし、自分たちにしかでいない作り方で形にすることができる。工場ごとに得意な技術があることを見極めるのも重要です。こうしたアナログなつながりが大切だと思っています」。
青木さんは地元、西尾の生地のほかに蒲郡で生産される三河木綿、知多の知多木綿などを使って「UZUiRO」のアイテムを手がける。アイテムはトップスやボトムスから小物など多種多様だ。生地は工場から仕入れるほか、企画やデザインに合わせて自分たちで選んだ糸を工場へ支給し、生地に仕立ててもらうこともある。また自社だけでは追いつかない製品の加工は、地元の工場や職人にお願いしているという。「どの素材もそれぞれに特長があって本当にすばらしいので、この地域の中でいろいろなアイテムを作っていけたら楽しいですね」と青木さんは話す。
2020年からは「不要になったものを、アイデアと感性で面白いに変えよう」と「MOTTAiiNA」企画を展開。「例えば大手メーカーが靴下を1000足作りたいとなった場合、工場では不足なく届けられるよう多めに糸や生地を用意します。しかし廃盤になった場合や、多品種小ロットの生産になった場合はその糸が余ってしまう。そんな糸や生地を、自分たちのアイデアや技術でアップサイクルしていく企画です。小ロット生産のうちだからできることで、地域や環境に貢献していければと思います」。
この仕事の魅力は?と尋ねると「アイデアが形になって、それをお客様に届けられることと」と笑顔の青木さん。「服は1000円台のものから何万とするものまで実にさまざまですが、それぞれに作り手のこだわりがあり、ブランド力でも変わる。形にするのは大変な作業ですが、だからこそおもしろいと感じますね」。今後も、地元とのつながりを大切にしながら服づくりをしていきたいという。「流行に追われ始めると使う素材の幅が広がってしまう。うちは逆に地元の素材にこだわり絞って、なんでもありにならないようにものづくりをするという姿勢はブレないでいこうと考えています」。
昔から地元で生地づくりが行われていたというストーリーを大切にし、脈々とその技術を受け継いでいる工場や職人に感謝したいと話す青木さん。「私たちが知らなかったこの地域の魅力を、もっと発信していきたい。今後はメンズのアイテムをさらに増やして、海外にも届けられるような体制を作っていきたいですね。地域性のある服づくりに特化していきたいと思っています」。