新海誠監督が語る『映画 すずめの戸締まり』の見どころとは?「声や音楽には、ほかの要素を軽々と飛び越える“心に深く響かせる力”がある」

2022年10月28日

2022年11月11日(金)公開、新海誠監督の最新映画『すずめの戸締まり』

2022年11月11日(金)に公開を控える新海誠監督の最新映画『すずめの戸締まり』。公開に先駆けて8月24日に刊行された、新海監督書き下ろしの原作『小説 すずめの戸締まり』がオリコン週間文庫ランキングで初登場1位を獲得(※9月2日付・オリコン調べ)し、大きな話題となっている。そこで今回、同映画の特集サイト「すずめウォーカー」では新海監督のインタビューを実施。小説執筆の苦労話から、映画の見どころの話、そして1700人のオーディションを勝ち抜いたヒロイン鈴芽役の声優・原菜乃華さんの魅力について聞いた。

新海誠監督


小説を書くことで“キャラクターの感情を再確認”「いつの間にか週に1回のお楽しみに」


――さっそくですが、小説発売後の現在の心境と、周囲からの反響についてうかがえますか?

【新海誠】映画の制作と同時進行での執筆だったので、ひたすら書いて、何とか完成させたといいますか。いまも映画の作業に追われている真っ最中ですので、まだ「小説が完成してよかった」という心境には至っていなくて(笑)。反響ですが、いまは映画の作業中でもあるので、なかなか読者から意見を直接聞かせてもらえる機会がなくて。とはいえ大勢の方に読んでもらいたくて書いたものなので、やはり感想は気になります。なので、ときどきTwitterやレビューサイトなどを覗いて、読んでくれた方々のコメントを拝見しています。

――小説の執筆に当たり、苦労されたことを教えてください。

【新海誠】なんといっても「書く時間を確保すること」がたいへんでした。映画制作と並行して書かなければならなかったので、まずは〆切から逆算して、作業に当てられる時間や1日に書くべきページ数を割り出し、それに収まるように書き進めていく、という作業スケジュールでした。

実際のところ、書き上げるのに約半年かかりましたが、その期間は、平日はとにかく映画の仕事をこなして土日は小説の執筆のために時間を確保する…という体制を作って、なんとか乗りきることができました。

新海誠監督作品の代名詞となっている“映像美”


――映画と小説の同時制作は、想定されていた以上にたいへんだったわけですね。

【新海誠】ただ不思議なもので、小説は書いているうちにだんだん楽しくなってくるんですよ。小説を書くより先に、自分で脚本を書いて絵コンテも描いているので、監督としてすべてを把握しているはずなのに、小説の形に落とし込むと、それまで気づかなかったキャラクターたちの感情がわかるようになってきて。「このとき鈴芽(主人公・岩戸鈴芽)は、こんなことを思っていたんだ」、「草太(宗像草太)はこういう感情だったんだ」と、書き進めるほどに新たな発見があることが新鮮で、そうした“キャラクターの感情の再確認”が、いつの間にか週に1回くらいのお楽しみになっていましたね。

原菜乃華さんが演じる、ヒロインの岩戸鈴芽

1700人を超える応募の中からオーディションを突破!ヒロイン役の声優を務める原菜乃華さん 


映画でも小説でも描いていない“空白の部分”も「鑑賞後は考察で盛り上がって」


――小説で描かれているキャラクターたちの感情が、映画ではどのように表現されるのか、非常に気になります。

【新海誠】映画は映画だけで楽しめるし、小説も小説だけで十分楽しめるようになっているので、両方見なければ…というものではないのですが、小説を読んで映画を見てもらえると、読んでいない状態と比べて2倍も3倍も楽しんでもらえるとは思います(笑)。

映画で気になったキャラの内面描写は、小説に記されている場合もあるという


――3倍も……!?その辺りについて詳しくお聞きしたいです!

【新海誠】映画というのは、「喜びを表すために、口角をちょっとだけ上がる」といった感じで、時間にすると1秒にも満たない、一瞬の表情の変化などで感情が表現されることが多いですよね。かなり意識して見ていないと、膨大な量の情報がただただ目の前を通り過ぎていく。そういう物語の奔流に身をゆだねるのが映画の楽しさだと思いますが、『すずめの戸締まり』も、映画としてのテンポが速く、どんどんいろんな出来事が発生する物語なので、すべてを深く理解するのはたいへんかもしれません。


もちろん、映画単体として最後まで見ていただければ、一度の視聴で「こういうテーマの映画だったんだ」ということが自然に伝わる内容になっていると思いますが、あらかじめ小説を読んでおけば、「あのキャラクターはどういった感情で、あんな行動をしたのか?」といったことがすぐに理解できるので、より深く物語の世界に没入していただけるのではないでしょうか。

「閉じ師」の青年・宗像草太

「閉じ師」の役割とは?


――先に小説を読んでおくことで、キャラクターたちの内面や関係性などがわかりやすくなると。

本作のキーとなる「謎の扉」

表情豊かなキャラクターたち


【新海誠】小説を読んでくださった方々には、映画での“情報の圧縮され具合”にも驚いてもらえるとも思います。小説では2ページを費やした描写が、映画ではわずか1秒で描かれていたりするので、その詰め込み具合にも注目していただきたいです。またその逆で、ほんの一瞬のシーンであっても、小説を読んでおくと、その場にいるキャラクターたちの感情を瞬時に理解できるので、先に小説に触れておいてもらえれば、映画に集中できて何かとお得だと思います(笑)。

――昨今では映画の公開後、YouTubeなどで内容を考察することが定番になっていますが、本作の場合は、その答えがすべて小説に詰まっているわけですね。

【新海誠】とはいえ、小説にもすべての情報を載せているわけではないので。映像でしか見られない要素もあるし、映画でも小説でも描いていない“空白の部分”もあったりするので、ぜひ鑑賞後は、考察で盛り上がっていただきたいです。

――両方をチェックして、どちらにも描かれていない部分を見つけ出す人も出てきそうですね。

【新海誠】この文章は映像ではどう表現されるのか?この映像を文章で表すとしたら、どう変換されるのか?同じひとつの物語でも、そういった異なる視点から楽しんでもらうことで、より幅広い、豊かな味わい方をしてもらえるんじゃないかなと考えています。

見る人の心に深く響かせる力が「声」や「音楽」にはある


――ここまで、小説→映画の順で作品に触れる場合の見どころをお話しいただきましたが、逆に、「小説を読まずに映画を見る場合」の見どころを挙げるとしたら、どんなところになりますか?

【新海誠】おそらく、大半の方がその状態で映画をご覧になると思いますが、映像以外で意識していただきたいポイントを挙げるとしたら、“音の情報”ですね。映画には効果音や音楽がありますし、一人ひとりのキャラクターに声がついている…というのが最大の特徴なので。「映画の半分は音でできている」とも言われますが、実際のところ、1カットごとにこだわって、どれだけ丁寧に絵を仕上げても、そのこだわりを軽々と飛び越えて、見てくださる皆さんの心に深く響かせる力が声や音楽にはあるんです。映画から本作に触れていただく場合、文章との対比はできませんが、音に意識を向けることで、ひと味違う映画体験を楽しんでいただけるはずです。

――音に関するお話の延長線上にある質問ですが、主人公の声を担当された原菜乃華さんについてもお聞きしたいと思います。鈴芽役に声優初挑戦の原さんを抜擢された理由と、原さんの声の魅力について、監督のご意見をお聞かせください。


【新海誠】鈴芽役のオーディションには1700人を超える方たちが応募してくださって。そのなかで原さんの声は、非常に魅力的といいますか。しっかりと感情が乗っていて、声だけで原さんの存在を認識することができたので、そこに非凡な才能を感じました。

――声優初挑戦でそこまで存在感を放つとは、ものすごい才能の持ち主ですね。

【新海誠】原さんの声は、彼女自身の感情との距離がすごく近いんです。透明感があるといいますか、感情が透けて見える声をされていて。それは技術うんぬんではなく、もって生まれた素質だと思います。声そのものに感情が多く含まれていて、そこが鈴芽役をお願いする決定打になりました。彼女の感情と声の近さは、聴いていただければすぐにわかるので、気になる方は是非、劇場で確かめていただきたいです。


文・撮影=ソムタム田井

(C)「すずめの戸締まり」製作委員会

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