JALの「コンソメスープ」は国内線と国際線で味が違う?市販化されるほどヒットした機内食の誕生秘話

2022年12月6日

フライト中、空からの美しい景色が目的だという人が多いかもしれないが、それと同時に「機内食」を楽しみにしている人も多いのではないだろうか。なかでも機内での定番の飲料として愛されているのが「コンソメスープ」だ。

このコンソメスープ、実は市販されるほどの好評ぶりで、最近では機内でコンソメスープを撮影してSNSに投稿する利用者も多いのだとか。もはや飲むだけでなくフライトを楽しむアイテムとして大きな役割を果たしているわけだが、“機内で飲めるコンソメスープ”がどうしてここまでの人気を得るようになったのだろうか。

今回は、国内の航空会社で最も長い歴史を持つ日本航空株式会社(以下、JAL)で、コンソメスープの開発に20年以上携わった経験のある地域事業本部に勤める野口善之さんと、機内食のメニュー開発を担当する商品・サービス開発部の渡邉健太さんに、コンソメスープの誕生秘話と変遷を聞いた。さらに市販商品については、販売元である株式会社 明治(以下、明治) マーケティング本部 フローズン・食品マーケティング部 調理食品Gの宮崎巧生さんに取材を行った。

JAL「ビーフコンソメ」。その歴史は国際線の記念すべき第1便のフライト時にさかのぼる


昔は現地のホテルのお手製?コンソメスープのルーツ

JALが保有する当時の資料によると、コンソメスープを機内食として提供し始めたのは1954年2月2日。国際線の第1便がフライトした記念すべき日だ。当日の航路は「東京(羽田)=ウェーキ島=ホノルル=サンフランシスコ」だったそうだが、当時は機体の航続距離が短く、ウェーキ島を経由する必要があったという。野口さんは、当時の資料をもとにこう語る。

「第1便は9時半にウェーキ島を飛び立ってホノルルに向かったため、おそらくランチ用としてコンソメスープを積んでいたのだと思います。現在は、粉末状のコンソメスープを機内のお湯で溶かしてご提供していますが、当時は現地のホテルで作ったスープを機内に運んでいたようです」

1995年秋の商品パンフレット


上空は地上と比べて気圧が低いため、お湯は沸点である100度まで上昇せず80度から90度ほどで停滞してしまうという。そのため、すべての利用者に配り終えるまでに冷めてしまったり、サービスの途中で沈澱するなどのトラブルが発生しやすいのだとか。しかし、コンソメスープのパウダーはお湯に溶けやすくサラッとしているので、こうした状況にはぴったりだった。

「また、国際線より早く、1951年に運航を開始した国内線では紙箱入りのサンドイッチと一緒に、魔法瓶に入れた紅茶やコーヒーを搭載していた記録があり、その後、コンソメスープもメニューに加わったものと思われます。当時の機内は空調が効かず、寒かったためか、お客様に少しでも温かい飲み物をご提供しようという配慮があったのでしょうか。今も温かいコンソメスープが提供されているのはその名残でしょうね」

1997年秋の商品パンフレット


一時は「コーンポタージュ」「中華スープ」も候補に?

現在のコンソメスープには2種類のラインナップがあり、実は国内線はビーフコンソメ、国際線ではオニオンコンソメが採用されている。両方飲みたい利用者がいてもおかしくないと思うが、なぜあえて分けられているのだろうか。現在の機内サービスを担当している渡邉さんに聞いた。

「2001年までは国内線と国際線ともにビーフコンソメを提供していましたが、同年にアメリカで流行した狂牛病がきっかけとなり、国際線では牛肉エキスを含んだすべての食事の提供を中止しました。その後、牛を含まない『オニオンコンソメ』を開発し、国際線で提供を開始しました」

オニオンコンソメを開発する過程で「コーンポタージュ」や「中華スープ」が候補にあがったこともあったそうだが、「味の好みが分かれそう」「ポットの中で沈殿しやすい」「具材がポットに引っかかる」など、トラブルに繋がる可能性もあったため、最終的にはお湯に溶けやすく、完成度の高かったオニオンコンソメスープを採用したのだという。

このような経緯でオニオンコンソメが誕生し、今や「コンソメスープ」として国際線で親しまれている。「ビーフコンソメスープと一緒にご提供することはないため、単純に比較はできませんが、オニオンコンソメスープも老若男女問わずとても人気です!」と渡邊さん。

2002年秋の商品パンフレット。「牛乳で飲むコーンポタージュ」は、オニオンスープの開発の際に候補にあがっていたものとは別物のようだ

2005年春の商品パンフレット。ついにオニオンスープが市販化!


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