関東は濃いめ、関西は淡め、九州は甘め…ではほかの地域は?日本各地で違う「しょうゆ文化」の謎に迫る

2022年12月30日

【近畿】うすくちしょうゆとこいくちしょうゆの双方が主流

近畿地方では、本醸造方式のこいくちしょうゆとうすくちしょうゆが使い分けされている。江戸時代に播州龍野(現・兵庫県たつの市)で誕生したうすくちしょうゆは、そもそも揖保川の水質に起因すると言われており、揖保川伏流水の硬度が低いことに関連して、しょうゆとしての発酵も緩やかで色がつかなかったという説がある。また、揖保川の軟水は酒酵母の生育に向かないとされていたが、発酵途中の甘酒をしょうゆ諸味に添加したところ、味の良いしょうゆが出来たと伝えられ、これがうすくちしょうゆの始まりだそう。

このため、近畿ではうすくちしょうゆが広まっている一方、本醸造のこいくちしょうゆの消費も多く、料理によって特徴の異なるしょうゆが使い分けられている。

うすくちしょうゆ発祥の地・兵庫県龍野市にある「うすくち龍野醤油資料館」


【中国】再仕込みしょうゆの発祥の地

中国地方では、混合のこいくちしょうゆの割合が高く、やや甘いしょうゆが使われている。また、醸造を二度繰り返すような製法からその名がついた「再仕込みしょうゆ」は、山口県柳井市で生まれたんだとか。

柳井市は瀬戸内海の港町で、近世に入ると瀬戸内海交易によって発展。原料の大豆や小麦は、柳井津から出荷していた木綿や塩の帰り船で、九州地方(大分県、熊本県など)から運ばれていたと言われている。

中国地方は九州北部の甘いしょうゆが移入したことにより、やや甘い混合しょうゆが多く使われるようになったと言われており、日本海に面した萩地方のしょうゆは、瀬戸内に比べより甘いと言われている。また、地元産の牡蠣エキスを使用した「牡蠣しょうゆ」など、しょうゆ加工品も作られている。

再仕込みしょうゆ発祥の地として知られる山口県柳井市


【四国】高知や愛媛は九州のしょうゆ文化の影響が強い

四国地方は、地域によってしょうゆの特徴が分かれている。豊後水道を挟んで九州の大分県と向かい合う高知県や愛媛県は、九州のしょうゆの影響を受け、甘味の強い「混合しょうゆ」を好む傾向に。また、ぶっかけうどんにだししょうゆを使用することもある。

一方、江戸時代からしょうゆの産地として知られている香川県小豆島では、関東と同様に甘味料を使用しない本醸造のこいくちしょうゆがつくられ、讃岐うどんのつゆには混合のうすくちしょうゆが使われている。また、香川県では、いかなごを使った「いかなごしょうゆ」を作っている。

江戸時代から本醸造のこいくちしょうゆ製造が行われてきた小豆島。島内の醤油蔵の様子


【九州・沖縄】甘味を抑えた本醸造しょうゆもある

九州・沖縄地方では、混合方式のこいくちしょうゆとうすくちしょうゆが使い分けられている。なかでも、九州地方の南部では強い甘味のあるしょうゆが好まれる傾向が強い。その理由は、戦時中の原料難の時期にしょうゆの生産量を確保するため「アミノ酸液」が使われ、この原料独特の臭気を緩和するために「糖」が使用されたことに由来。戦後に訪れた飢餓への反動から甘さへの欲求が高まると、これに応えようと糖原料の種類と使用が増え、地域独特の甘いしょうゆに繋がったと言われている。

また、九州地方はしょうゆメーカーの数が多く、それぞれの地域で特徴の異なるしょうゆをつくっているが、甘味のある混合しょうゆを製造するメーカーが多い。一方、九州北部では糖分あるいは甘味料を抑えた本醸造しょうゆも多く作られ、さらにうすくちしょうゆの生産も多い。

料理によって、うすくちしょうゆと甘味のあるこいくちしょうゆの2つのしょうゆが使い分けられていることも多いと言われている。一方、沖縄は東京からの物資調達が多かったという背景もあり、こいくちしょうゆが多く使われている。

九州は「甘いしょうゆ」のイメージが強いが、それだけではなかった


「めんみ」って何?地域の味に特化したしょうゆが盛りだくさん

各地域によるしょうゆ文化の違いを紹介したが、キッコーマンの商品のなかでは特に地域に特化して売れているものがあるという。北海道エリアにおける濃縮つゆ「めんみ」という簡便調味料だ。

「北海道では、1961年に発売した濃縮つゆ『めんみ(当時の名称は『めん類用まんみ』)』が、めんつゆとしてだけでなく、丼物、煮物、鍋物等のあらゆる料理に広く使われることで、今日でも強いご支持をいただいています。また、当社では現在、北海道向けの『あまくちしょうゆ』、東北向けの『まろやかしょうゆ』、甲信越向けの『うまくちしょうゆ』、近畿・北陸・九州向けの『あまくちしょうゆ』、九州向けの『九州うまくちまろやかしょうゆ』など、各地域の方々の嗜好に合わせた商品も販売しています」

キッコーマンは日進月歩でしょうゆを進化させている


また、キッコーマンでは冒頭の3つのしょうゆの製造法のうち、「本醸造方式」をベースにしながら、火入れ(加熱殺菌)しない「生しょうゆ」、大豆を100%使用してそのうまみを丸ごと引き出した「特選 丸大豆しょうゆ」、食塩分をカットした「減塩しょうゆ」なども展開。常に健康とおいしさの両方を意識しながら、社会の変化に応じてしょうゆを進化させ続けている。

「ほかにも、有機原料を使用した『特選有機しょうゆ』、大豆や小麦を使わずにつくる『えんどうまめしょうゆ』、血圧が高めの方のための『大豆ペプチド減塩しょうゆ』、さらに『ハラールしょうゆ』や『だししょうゆ』といったラインナップがあります。毎日の食卓に欠かせないしょうゆにも、実はたくさんの種類と、それぞれに適した使い方があります。これを知っていただき、活用いただくことで、食卓がより豊かになることと思います」

最後に、この年末年始にぜひ作ってほしいという、しょうゆを使ったおすすめ料理を聞いた。

「当社のレシピサイトやアンケートの結果では、年末年始に家族や仲間が集まった際のごちそうとして『すき焼き』を手づくりして召しあがる方が多いことがわかりました。当社のレシピサイトでは12月・1月の閲覧数1位のレシピは、長年『すき焼き』です。特にお正月は、おせちとともに食卓に欠かせないメニューである『すき焼き』をぜひお楽しみいただきたいです。2023年も、しょうゆを通して皆さまの食卓を豊かにしていきたいと考えています。2023年もご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いいたします」

取材・文=松田義人(deco)

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