そうめんの代表格「揖保乃糸」、作っているのは1社だけじゃない?“黒い帯”と“赤い帯”の違いも

2023年7月7日

暑くなってきて、あっさりしたものが食べたくなるこの季節。食卓に欠かせないのがそうめんだ。そうめんといえば、特に有名なのが「揖保乃糸」ではないだろうか。

揖保乃糸は兵庫県推奨優良特産品となっているが、その喉越しのよさと豊かな小麦の香りで、今や全国的に人気の商品。手延べそうめんカテゴリでは全国シェア約40%を占め、年間約2万トン出荷を記録している。ただ、揖保乃糸について調べてみると、公式サイトとしてヒットするのは特定の企業名ではなく、「兵庫県手延素麵協同組合」という団体名。商品パッケージ裏面を見ても、やはり組合の名前が記されている。

果たして、揖保乃糸はどのようにして作られているのだろうか?今回は兵庫県手延素麵協同組合の担当者に、揖保乃糸の秘密について聞いた。

「そうめんやっぱり揖保乃糸~」でおなじみの夏の定番食材。では、一体誰が作っている?


揖保乃糸は多数の生産者が製造!味にバラつきがないのはなぜ?

まず、最も気になる「誰が揖保乃糸の生産を行っているのか」を聞いてみた。すると、思わぬ返答が。

「兵庫県手延素麵協同組合(以下、組合)は、兵庫県南西部、西播磨エリアのたつの市、姫路市、宍粟市、揖保郡、佐用郡に分布する約400軒の生産者が加盟する生産者組合です。『揖保乃糸』は組合が保有する登録商標であり、組合が原材料・副資材の仕入れ、運搬、生産指導、品質管理、検査、専用熟成倉庫での保管、製品の出荷に至るまで、すべてを一元管理しています。揖保乃糸は1つの会社で作っているのではなく、たくさんの生産者がいて、統一された規格のもとそれぞれの工場で作っているんです。組合は高いレベルで安定した品質の、安全で安心な製品をお客様にお届けする責任と役割を担っています」

つまり、定められた細かい基準に従い、西播磨に分布する生産者が作り、厳しい検査を経て組合のそうめん専用の熟成保管倉庫に納められ、そこから出荷されて全国の消費者のもとへ届いているというわけだ。

「揖保乃糸」ブランドの中でも生産量が最も多い、赤い帯の「上級品」


組合の歴史は古く、それまでは品質や価格にバラつきのあったものを、しっかりとした統一基準のもと安定させるために組織化がなされ、1887年(明治20年)に県の認可を受けて設立。商標『揖保乃糸』は1894年(明治27年)に誕生し、1906年(明治39年)に特許局へ登録されている。そして現在、実はその揖保乃糸には複数の種類がある。

「揖保乃糸は通常、温度と湿度が安定した10月から翌年4月にかけて作られます。また、原材料である小麦粉の質や麺の太さ、製造時期などでいくつかの等級に分かれています。なかでも生産量のおよそ8割を占め、最もご愛顧いただいているのが、赤い帯の“上級品”です。そして、贈り物におすすめなのが黒い帯の“特級品”ですが、これは上級品よりもさらに上質の小麦粉を使用しており、熟練した技術が必要とされるため、組合が選抜指定した生産者によって、最も寒くなる12月から2月にかけて作られます」

より上質な小麦粉を使い、熟練した技術によって生産される「特級品」


また、手延べそうめん以外の麺の生産を行っているとも話す。

「揖保乃糸には複数の等級がありますが、ほかにも、国産小麦を使用してもちもちとした食感のよい『縒つむぎ』、少し太く仕上げることでボリューミーな食べ応えになっている『太づくり』などもあります。また、作っているのはそうめんだけじゃなく、そうめんと同じ手延べ製法で作ったひやむぎやうどん、中華麺、パスタなどもあります」

ところで、7月7日の七夕は「そうめんの日」としても知られているが、これはいつ頃から始まったのだろうか。

「七夕にそうめんが食べられるようになった由来は、古代中国に伝わる『七夕にそうめんを食べると大きな病気にかからない』という言い伝えから来ています。これが宮中に伝わり、1年間の無病息災を願って、当時高級品だったそうめんを行事食としてお供えする習慣が生まれ、その後、一般市民にも広まりました。『全国乾麺協同組合連合会』でも7月7日を『そうめんの日』と定めており、2023年の七夕にもぜひ多くの方にそうめんを食べていただき、向こう1年間を健康に過ごしてほしいと思っています。ちなみに現在、揖保乃糸のCMキャラクターを務めていただいている女優の八木莉可子さんは、お誕生日が7月7日なんです。不思議なご縁を感じています!」

揖保乃糸を使ったホットサンド!?意外なアレンジメニューも続々

兵庫県・播州地区の文化と伝統が受け継がれ、今日では全国的に親しまれる揖保乃糸。担当者いわく、従来の食べ方以外にもおいしい食べ方があるそうだ。

「意外とおいしいのが『そうめんホットサンド』です。そうめんをパン代わりに使用することで、外はカリッと、中はモチッとした食感が楽しめます。ピザの生地風にしてもおいしいです。持ち運びがかさばらないので、アウトドアの際にもおすすめですよ。ほかにも『そうめんサラダ』がおすすめです。茹でたそうめんをマヨネーズと和えてパスタサラダ風にしたり、お野菜とそうめんをドレッシングで和えるだけでもサラダ風でさっぱり食べられます。あと、実は揖保乃糸はお弁当にも最適なんです。意外に思われるかもしれませんが、揖保乃糸は茹で伸びしにくいため、時間が経ってもツルツル。あらかじめひと口大にまとめておけば、めんつゆにつけたときなども食べやすいです」

そうめんといえばついつけ汁のほうをアレンジしがちだが、実は麺自体のアレンジも多岐にわたる。これで、夏が過ぎてそうめんが余っても安心だ。担当者も、「おいしく揖保乃糸を食べていただけるのであれば、どんどんいろんなアレンジをしていってほしい」と話す。

「揖保乃糸」を使ったホットサンド


コンパクトで保存性も高い揖保乃糸は非常食としても

多数の生産者がいるものの、バラつきなく品質を徹底して作られている揖保乃糸。どこの家庭でも夏は当たり前のように食卓にあがる定番商品だが、「いかにおいしく食べてもらえるか」への追求はまだまだ止めない姿勢だ。

「揖保乃糸は原材料にとことんこだわり、手間暇かけて作っています。まだ食べたことがないという方にも、ぜひ一度お召し上がりいただきたいです。また、そうめんは茹で方が命。商品の袋や公式サイトのおいしい茹で方を参考にすれば、どなたでも簡単に、最高の状態で揖保乃糸をお召し上がりいただけます。コンパクトで保存もできて、非常食やローリングストックにも最適なので、ご家庭に常備していただけたらうれしいですね」

2023年の夏は、揖保乃糸をいろんな食べ方で楽しんでみては?


来る夏本番、そして7月7日は、1本1本に生産者のこだわりが詰まった揖保乃糸を食べて、その長い歴史を感じてみてはいかが。

取材・文=松田義人

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