今、群馬県がおもしろい理由。山本一太知事が仕掛ける“群馬というコンテンツ”とその未来

2026年2月17日

温泉地から始まる、新しい対話の場「湯けむりフォーラム」

ーー知事のおっしゃっているエンタメ、クリエイティブという流れで、「湯けむりフォーラム」についても伺いたいです。実際、メディアやエンタメを軸に、さまざまなクリエイティブ系のプログラムが用意されていますよね。そもそも、どんな構想で立ち上げたフォーラムなんでしょうか?
【山本一太知事】正直に言うと、こういうフォーラムって、自治体があちこちでやっていて、どこにでもありそうなものが多いんですよね。

群馬県でやるなら、ほかと同じことをやっても意味がないと思っていました。年に一度、有識者が集まって議論する場をつくるにしても、「これは群馬でしかできない」と言えるものにしなきゃいけない。そう考えて準備を進めていたら、途中でコロナにぶつかってしまった。でも、試行錯誤を重ねながら続けてきて、今回がリアル開催としては4回目になります。毎回、少しずつですが、確実に進化してきました。最大の特徴は、職員が主体になって運営していることです。

「湯けむりフォーラム」に二人の友人を招いたことがあります。ひとりは、いわゆる「ダボス会議」、世界経済フォーラムの運営に関わっている人。もうひとりは「シャングリラ・ダイアローグ」という、アジアの防衛大臣会議を主催しているIISS(国際戦略研究所)というシンクタンクに関わっている人物です。その二人が口をそろえて驚いていたのが、「企画構想をどこにも委託していない」という点でした。

未来を考えるトークセッションからエンタメまで、さまざまなコンテンツを通して、新しいムーブメントを創造する「湯けむりフォーラム」【提供画像】


彼らから「これを自治体の職員だけでやるなんて、普通はあり得ない」と言われました。実際、職員は相当大変ですし、知事戦略部なんて本当にギリギリで回しています。でも、そうやって続けてきた中で、途中からデジタルやクリエイティブという軸が、だんだんと明確な構想になってきました。

そうして続けているうちに、少しずつフォーラムのプレステージも上がってきました。たとえば去年は、東映の吉村(文雄)社長が一晩泊まりで参加してくれた。夜にこっそり、「東映アニメーション、群馬どうですか?」とささやいたりしてね(笑)。それから、今回は東宝の松岡(宏泰)社長にも来ていただきました。松岡さん、なかなか地方には来ないと思います。ゴジラ研究家でもあるので、ゴジラの話ばかりしていましたけど(笑)。

さらに言うと、普通の自治体のフォーラムには、まず来ないような方々も来ています。映画の世界で最高峰の南カリフォルニア大学・映画芸術学部の副学部長が来たり、ニューヨークフィルムアカデミーのCEOや校長が来たり。そういう意味では、かなり“普通じゃない”状況になってきている。だからこそ、「湯けむりフォーラム」は、少しずつですが、オンリーワンの存在になりつつあると感じています。

ーー地方発の取り組みでありながら、最初から世界基準の人たちと話をしている。その距離感が、ほかとは決定的な違いですね。
【山本一太知事】私が知事に就任したとき、まずみんなに伝えたのが「“劣化版東京”をつくるな」ということでした。地方自治体が一番陥りやすい落とし穴は、まさにこの“劣化版東京”なんです。昔は、村長や町長が「俺がいるうちに、でっかい風呂をつくるんだ」みたいな感覚で、巨大な箱ものをつくって、結果的に無用の長物になるケースが多かった。でも、実は今も似たような感覚が残っているんです。

たとえば、東京でマラソンが流行っている、東京でこういう施設が流行っていると聞くと、「じゃあ、うちもやろう」と、すぐにまねをしようとする。でも本家より、どうしたってクオリティは落ちる。つまり「劣化した状態」です。そんなものに観光客が足を運ぶわけがないでしょう。「何か似ているけど、違うな」と思われて終わりです。だから、繰り返し言ってきました。「“劣化版東京”をつくるな」と。

規模では東京に敵わない。でも、群馬県がやる事業は、小さな予算でも大きな予算でも、すべて「群馬ならでは」のものにしようと決めました。群馬の自然や、上州人気質も含めて、あらゆる要素を強みに変える。そんなプロジェクトをやろうと、6年半言い続けてきたんです。

tsulunosのスタジオで対談が行われた【撮影=阿部昌也】


そうしたら、だんだん県職員も起爆してきた。もともと優秀なんだけど、真面目すぎたところが、いい意味で崩れてきている。今は本当に、エンジンがかかった感じになっています。湯けむりフォーラムにしても、規模だけで言えば、もっとお金をかけているフォーラムはあると思うんです。でも、東京のフォーラムでも、松岡さんやUSC(南カリフォルニア大学)の副学部長クラスの方は、なかなか来ない。

そう考えると、だんだん地方自治体の枠を超えたイベントになってきている実感があります。これを、毎回デジタルエンタメの人たちが目指して集まってくる場にしたい。

ーー職員の方が、めちゃくちゃ優秀なんだなと感じました。
【山本一太知事】職員は優秀です。ただ、自治体の職員が慎重になるのは当たり前なんですよ。税金を扱っている以上、「失敗しました、すみません」では済まない。メディアの目も厳しい。でも最近は、「失敗しても責任は自分が取る」という文化が少しずつ根付き始めています。一歩踏み込まないと、リターンはない。バッターボックスに立ち続けなきゃ、ヒットは打てないんです。

そういう感覚がだんだん共有されてきて、職員も思い切ったことを言うようになってきました。もともと優秀だったんですが、そこにスイッチが入った。今は、いい意味で起爆してきていると思います。私は心から「群馬県の職員は、全国の自治体で一番優秀だ」と思っています。

よく、私のことを「6歳児」だとか、「子どもっぽい」とか言う人がいるんですよ(笑)。1日の9割くらいは機嫌がよくて、怒ってもすぐ忘れるし、何かやっているとほかのことを忘れる。いかにも6歳児の特徴だって言われるんです。ただ、そんな「6歳児の私」だからこそ言えるのかもしれませんが、あらゆる場で「群馬県の職員はナンバーワンだ」と自信を持って言える知事は、たぶん私しかいない。ほかの知事が、そこまで職員を前面に出して褒めているのは、正直、聞いたことがありません。

だから、本当に私は幸せな人間だと思っています。あとは寝不足さえ解消すれば、人生、言うことないんですけど(笑)。

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